嵐の一夜…

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週末は天気が思わしくなく、下界で過ごしたが、今年は重い荷物を背負っての山行をしていないので、平日登山を決行。
この夏、孫と山上のテン泊を予定しているので、その予行演習だ。
登山口の十勝岳温泉の駐車場で目覚めると、スッキリとした青空が拡がっている。しかし、昨夜は、雨がぱらつき、上空の寒気が抜けていないのが分かる。
今日はソロの旅だ。午前8時、ゆっくりと歩き始める…。






久し振りの縦走装備は、やはり、ずしりと重い。単独の時は、早くなりがちの歩みを、意識してコントロールする。どうせ泊まりなのだし、急ぐこともないのだ。のんびりと、花の写真でも撮りながら歩けばよい。などと、一人会話をしながら歩くのが、ソロ山行だ…。
 
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アプローチ
 
登山口の標高が高いので、アプローチで、既に這松帯を歩く。この緩やかな道が、意外に堪える。行く手の山並みは、山スキーでお馴染みの三段山や上ホロカメットク山の稜線だが、寒気の影響か、雲が湧き出ている。ま、日射しが強くない方が、歩きやすいんだと、また、一人会話をする…。
 
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荒々しい山肌
 
硫黄臭のする小沢を渉ると、いよいよ、登山道らしい道に出る。道端には既に高山植物が出迎えてくれるのも、この山が人気のある所以だ。
 
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ツマトリソウ
 
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ウコンウツギ
 
何度も訪れているので、距離感や時間配分に苦労することはない。しかし、富良野岳の分岐に到着する頃、そろそろ、息も上がってきた。蒸し暑い所為もあるだろう。ここで、ちょっと長目の休憩を摂る。平日なのに、人も少なくない。殆どの人は、分岐から富良野岳へと舵を切る。富良野岳は、道内屈指の花の名山だ。僕は、上ホロカメットクへと向かうが、明日の予定は、三峰山を経由して、富良野岳の花巡りをする、という算段だ。
 
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エゾコザクラ
 
案の定、前後に人の気配も無い。僕は、普段は付けないカウベルを、ザックから取り出し、取り付けた。その控え目な音でも心強くなる。涸れた沢をなぞるようにつけられた登山道は、尾根の取り付きへと分け入る。そこには、名物となっている階段が設けられている。多くの登山者は、この階段を嫌がるが、僕は、結構気に入っている。勿論、そのハードな道のりであることに変わりはないのだけど…。
 
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階段の急登
 
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振り返ると…
 
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ゴゼンタチバナ
 
急な階段を終えると、荒々しい斜面に出る。生憎のガスで、ドーンと十勝岳、というわけにはいかなかった。階段で弱った脚に、ジワリと疲れが溜まったことが分かる。ザックを下ろし、大きな岩に腰掛け、仰ぎ見る空は、真っ白…。
 
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十勝岳は、生憎雲の中…
 
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ヨツバシオガマ
 
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湧き上がる雲の中に、荒々しい岩肌…
 
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かみふらの岳
 
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三峰山の稜線
 
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辛うじて、上ホロカメットク山頂が見えます
 
この稜線は、遅くまで雪渓が残り、今が旬の花が咲き乱れ、まさしくお花畑だ。富良野岳に比べ、花の種類こそ少ないが、疲れを癒すには充分だった。前方には、取り敢えずの目標、かみふらの岳も見えてくる。
 
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エゾノツガザクラの群落
 
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アオノツガザクラ
 
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ニシキツガザクラ
 
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イワヒゲ
 
かみふらの岳の稜線はガスが掛かり、展望は良くない。そのまま、上ホロカメットク山への道を辿る。僕を追い越した二人は、そのまま上ホロカメットク山に向かうが、僕は、分岐を右に折れ、避難小屋へと向かった。そこは、イワヒゲやエゾノツガザクラ、チングルマの大群落が拡がる、快適な道だった。
 
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白いのはイワヒゲの群落…
 
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チングルマの群落…
 
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エゾノツガザクラの群落
 
快適な散歩道が終わると、這松をえぐるように、登りが続く。尾根を乗り越すと、待望の避難小屋が見えてくる。雪渓も大きく残り、水の確保も約束出来る。でも、夏も終わりが近付くと、アテに出来ないこともあるので、事前の情報は必要だ。
 
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避難小屋。生憎、十勝岳は見えない…
 
途中、雪渓水で水を摂り、テン場に向かう。避難小屋には、まだ誰もいなく、テン場も空だ。ガイドツアーが宿泊装備を持って富良野岳に向かっていたので、おそらく、この小屋に来るだろう。のんびりと、テントを張る。ガスは、濃くなったり薄くなったり…。上空の寒気は抜けきっていないようだ。十勝岳を往復しようと思ったが、展望が期待出来ないので、読書と決め込んだ。
 
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テン場から上ホロカメットク山頂を望む…
 
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トレックライズ1
 
今回のギアは、アライテントのトレックライズ1を背負ってきた。1〜2人用で、奥行きは110cmで、ギリギリ2人は可能だが、1人で使うには快適だ。クッカーはプリムスのライテックトレックケトル&パンという代物。一見、深型の鍋とフライパンのセットに見えるが、ケトルという名前が示す、注ぎ口が付いている。珈琲を淹れるときに便利だ。アルマイト加工が施されている。最近はチタン製は止めて、アルミにしている。カートリッジとバーナーが収納出来る。ちなみに、バーナーは、EPIの「revo」というもの。トップの写真を参照してね。
 
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こんな雰囲気で過ごしている…
 
珈琲を飲み、昼食を摂り、読書しながら寝そべる…。これもまた、山の生活の至福のひとときだ。夕方頃、ツアーの一行と、2人組のパーティーが到着し、いずれも、避難小屋に入った。どうやら、テン泊は、僕だけのようだ。この時、僕はまだ、明日の行程のことを考えていた…。しかし、読書も8割方終えた頃、事態は急変する…。時刻は午後9時過ぎ頃だった。テントの外が、ピカッと光る。暫くして、雷鳴が轟く…。程なく、雨粒がテントを叩く音がし始める。その音は、次第に大きくなり、雨脚が速くなる。再び、雷鳴が轟く…。少し近付いたようだ。途端に、豪雨となる。おおよそ、1時間あまり続いただろうか…。小降りになった頃、テント内を点検する。水漏れはないようだ。
 
少し安心して、再び、読みかけの本を読みながら、寝入った…。夜半、激しい風の音で、目覚めた。テントが大きく揺れている。今度は強風だ。ペグはしっかりと打ち込んでいるが、万が一を思い、外に出る。身体が風に煽られる。ペグを打ち足し、張り綱を補強する。それだけしても、ポールが折れたら、それで一巻の終わりだ。そうなれば、直ぐ近くの小屋は、まさしく避難小屋になるだろう…。ポールの強度を試すつもりになった僕は、何故か、心細くない。テントが変形するのが分かるが、しなやかな方が、風には強いのだ。とか何とか納得しながら眠りにつこうとするが、直ぐに目覚めているようだ。眠ったかどうか分からないまま、外は、明るくなった。時計を見ると、午前4時前だ。相変わらず、強風が続いている。時折、激しくテントが揺さぶられる。もう眠れないので、残りの読書をしながら、お湯を沸かし珈琲を淹れる。
 
6時を過ぎても、風は一向に止まない。小屋の人たちの出入りはあるが、旅立つ気配はない。十勝岳狙いだろうから、様子見というところだろうか。いずれにせよ、僕には、テントの撤収という仕事が待っている。テント一式を除いて、総てパッキングする。ザックは外に持ち出さず、中に入れたまま…。これが肝心だ。ポールを外し、スリーブから抜く。ペグを外すと、直ぐにテントは風に煽られるが、ザックの重みで飛ばされることはない。袋詰めにする余裕など無いから、そのままフライシートごと丸め込み、ザックに詰め込む。
 
今日の予定は、下山のみになった。最大の難所は、かみふらの岳の稜線の通過だった。わずか数メートルの稜線の乗り越しだったが、真正面から吹き付ける風は手強かった。何年か前、三峰山を通過しているとき、匍匐前進よろしく、這いつくばって生還した記憶が蘇る。無事に通過し、道が這松帯に入ると、漸く、風を凌げるようになった。不思議なもので、さっきまでの苦行を忘れたかのように、ひょっとしたら、歩けたかも、などと思うが、振り返ると、相変わらず、上空の雲は、稜線上を駆け抜けているようだった…。
 
登山道は、昨夜の激しい雨の名残か、雨裂が走り、小さな石がばらまかれたように散らばっている。それが浮き石となって、滑りやすくなっている。一夜で、こんなにも様相が変わるのだ。
 
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イワブクロ
 
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ウサギギク
 
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イワギキョウ、だと思う
 
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チングルマの果穂
 
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イソツツジ
 
稜線上で、幾組かのパーティーと擦れ違う。平日なのに登ってくる人は、大方、リタイアしたお年寄りか、本州からのガイドパーティーだったりする。上空は真っ白だし、不穏な雲も蠢いているのに登ってくるのは、天気予報は良いのかも知れない。「上はどうでしたか?」と訊ねられるが、総ては話せない。どうせ、真実を受け容れるのは、かみふらの岳の稜線に出たときなのだ。そのくらい、下界に近付くにつれ、穏やかになってくる…。
 
300段あるという階段を快調に下り、昨日は喘いでいた沢道も軽快だった。ジャケットを脱ぎ、シャツ1枚になっても暑くなる。時折、日射しも当たるようになった。草はまだ濡れているので、雨具の下は脱げない。富良野岳への分岐を過ぎると、行き交う人は、益々多くなる。こんなに穏やかなのに、富良野岳の山頂は、まだ、黒い雲の中だった…。
 
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エゾヒメクワガタ
 
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分岐
 
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富良野岳は雲の中…
 
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最後に姿を現せた十勝岳
 
観光客の姿もチラホラ見える頃、この旅も終わりが近付く。予定の半分の行程で終わってしまったが、内心、戻る理由が出来たことに喜んでいる自分がいる。山歩き自体が過酷になってきた今日この頃…。行き慣れた山では、達成感が乏しいから、モチベーションも上がらないのだろう。
 
最近は、訓練のための登山になっている。これからも山登りを続けたいと思うなら、それはそれで必要なことだ。しかし、今回は、ちょっと違う。少しだけ、達成感を味わっているのだ。それは、嵐の一夜を過ごし、猛烈な風の中、テントを撤収し、無事に、何事もなく帰れたことだった。体力作りの計画だったけど、思わぬ、精神力を試される山行になった。
 
これだもの、ソロ山行は止められないよな…。
 
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最後の風景
 

by meo_7 | 2014-07-16 05:13 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(4)
Commented by at 2014-07-16 11:16 x
MIURAさんの文章って、ほんとマジックだ。
私には到底できるはずもないソロテン泊も変に憧れさせてし
まったり、「精神力を試される山行になった」 だなんて、言葉
たちが画像のイメージをどんどん膨らましてしまう。まんまと
術中に嵌ってしまった感じ、だからマジックなんです。
ついでに、タニギキョウ??あれはチシマギキョウじゃない?
これくらいのお返しはしないとね(笑)

Df、いいね。
ここ数日、心が揺れてる。あえてシルバーボディ。MIURAさ
んなら… どちら?
Commented by meo_7 at 2014-07-16 11:55
翼さん、早速、ありがとう。
上空の寒気、というのは侮れないですね。
こうなって、万が一のことがあると、「年寄りの冷や水」ってことになりかねません。

タニギキョウは、明らかに間違いでした。
翼さんの至仏山のレポ、最後の写真の印象が強かった所為でしょうかね?
実は、イワギキョウと記したかったのです。
形はチシマギキョウと酷似しているのですが、肌はツルツルで無精ひげがありません。
雨に打たれ、天を仰げないでいる姿かなと思っていましたが、迷います。
 
Df ですが、ボディの色は迷いますね。
シルバーに痺れますが、きっと、山には持って行けなくて、家で磨いてばかりいるのじゃないかな?
実用ならブラックを、と思っていますが、この時代にシルバーボディとは、ニコンも初老世代の心を揺さぶりますね。

ま、2台持てばいいじゃない、ということなんでしょうが、1台でも躊躇しているのに…。
でも、フルサイズの機種も欲しいしねー。
 
先超されそう…。
Commented by てばまる at 2014-07-17 21:02 x
こんばんは~
今度はソロテントですか~ 見たことのある登山道と山容に、見入ってしまいました。またいつかこの山にチャレンジしたいものです。

ソロテントの醍醐味はやっぱり時間を好きなように使えることですね。
昔はテントで読書もしましたけど、最近は設営したら休憩もせず、薄暗くなるまで動き回り、夕食したら、今度は星空撮影と、完全に寝床のために持って行ってるような感じです(^-^;)

雷雨はちょっと怖いですね。テント全体がピカッて光るし地響きが凄いですよね(T-T) 
Commented by meo_7 at 2014-07-17 21:48
てばまるさん、こんばんは。
北海道は、ずーっと大気が不安定で、毎日何処かで大雨警報が発令されています。
山の雷雨は、逃げ場がないので怖いですね。
 
こちらは花の最盛期ですが、尾瀬もニッコウキスゲで華やかになりますね。
そろそろ、尾瀬行きですか?


時々、想うこと…


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