ニペソツ山 幻の花(2015/8/2)後編

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それは、崖の途中の岩に咲いていた。肉眼では、それをトカチビランジだと気付く人はいるだろうか…。実際、僕は、ヒロポンの指差す方向に目を凝らすも、判別がつかなかった。しかも、あいにくのガスが岩壁を覆い始めていた。イワブクロと間違えても不思議ない。




ヒロポンの300ミリを装着し、覗いてみる。僕は、写真でしか見ることのなかった幻の花を、肉眼で捉えた。いや、レンズ越しだけど…。近付くことは、敵わない。ロープで確保してもらって、やっとの所だろうが、足場は崩れ落ちそうな脆い岩場に思える。
 
手に触れられないもどかしさはあるけど、それはそれで、孤高の花の気高さを尊ぶべきだろう。頂上付近では、数株が散見された。意外にも大きな株があり、驚いた。僕のレンズでも撮影してみたが、家に帰って現像しても、小さすぎて、細部のディテールは再現されなかった。いくつかの幸運が、僕に訪れていたわけだ。
 
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トカチビランジ
 
 
(※ トカチビランジの写真は、トリミングとコントラスト、レベル調整をしています)
 
 
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チシマゲンゲ
 
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エゾルリソウ(終わりかけ)
 
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タカネナデシコ
 
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フタマタタンポポ
 
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ミヤマアズマギク
 
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シコタンソウ
 
 
珈琲を飲み、おしゃべりをして、気付けば、1時間ほども頂上にいた。時刻は、午後1時を過ぎた。僕の足では、ギリギリの時間だと思った。いや、万が一のために、ヘッデン覚悟だよ、と言い添えた。ヒロポンには、僕たちを置いて、先に下りるように言ったが、これも却下された。年寄りふたりを置き去りにするのも気が引けるのかも知れないね。
 
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下山開始です
 
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ナキウサギの鳴き声が響きます
 
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天狗岳、前天狗への登り返しが待っている
 
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イワツメクサ
 
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タカネシオガマ
 
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ミソガワソウ
 
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天狗岳への登り返し
 
 
天狗岳への登り返しで、後続の若いパーティーに追い抜かれた。このパーティーは、登るときは、僕たちが追い付き、追い越したはずだった。さすが、若い人たちは、帰りの分のスタミナも充分だった。
 
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イワブクロ
 
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天狗岳への登りから振り返る
 
 
午後のニペソツは、東側の山肌が霧に包まれることが多い。その所為か、稜線を境に、植生が違っている。チシマキンバイなどの湿性の花畑は、東側の斜面に拡がる場合が多い。同じ山でも、環境は大きく違うのだ。
 
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登り切って天狗平を歩くふたり
 
 
天狗平と前天狗のコルの間に、お花畑が拡がっていた。ここで、撮影がてら、休憩をする。山頂を出発してから、2時間弱掛かっているが、休み無しでは歩き続けられない。
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ホソバノキソチドリ
 
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ウサギギク
 
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エゾツツジ
 
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チングルマの実
 
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ゴゼンタチバナ
 
 
2回目の登り返しは、前天狗までの岩礫地帯だ。既に足腰にガタが来ているから、とても辛い。鉛のように重くなっている足に、重ねて鉄下駄を履いている感じだ。足が痙るので、ママが薬をくれた。薬に頼ったのは、初めてのことだ。痙らなくなるというだけで、パワーをくれるわけではない。前天狗で、数人に抜かれた。ここで、再び珈琲を飲み、ニペソツと、最後のお別れだ。きっと、もう訪れることはないだろう。名残が惜しいという気持ちではなかった。正直に言えば、逃げ帰る、という言葉が相応しい…。
 
テント場の適地には、一張りが張ってあった。そこへ、ふたり組もやってくる。しかし、テン場は埋まってしまっている。早い者勝ちの一等地だから、しかたがないにしても、僕とママだったら、途方に暮れる場面だ。
 
前天狗を後にして、プロムナードを歩いていると、再び、テン泊装備のふたりと行き会った。ヒロポンと情報交換をしているようだが、やはり、苦笑しながらも、ガッカリした様子だった。
 
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白いイワギキョウ
 
 
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この後、長い下りが始まる…
 
 
本当の闘いは、限界を超えたと思ったときから、始まる…。上の写真で、この旅の記録は終わっている。カメラは、ザックに仕舞った。もう、気持ちに余裕がなくなってるのが分かった。それで、歩くことだけに専念することにした。プロムナードが終わり、灌木帯に入る頃、午後4時を廻った。天狗のコルまで一気に下り、そこで小休止を摂る。ここから、3度目の登り返しがあるので、気持ちを切り替える。ヒロポンが苦手だという小天狗の岩場には、案外と簡単に登り返した。直前に飲んだ、エネルギー源のゼリー飲料が効いたのか? 
 
さあ、もう、下るだけになった。あの忌まわしい登り返しは、ない。2度ほどバランスを崩し、尻餅をつくが、ダメージはない。それどころか、ふたりに置いて行かれることもなくなった。午後5時も廻ったが、林内は暗くならない。後1キロの地点で、ママが最後の休憩と言い、ボトルに残った珈琲を分けて、飲んだ。延々と続く樹林内の下りは、唐突に聞こえてくる沢音によって、終わりが近付いたことを知らせる。そして、最後の渡渉を終えると、待望のゴールだ。午後6時を少し過ぎていた。ヘッデンを使うことは、なかった…。
 
僕にとっては、12時間にも及ぶ、死闘に近い山行だった。それは、気持ちの問題なのだ。端から、弱気が先行していたからに過ぎない。標高差は1000m弱だが、顕著な登り返しが3度あるので、所謂、累積標高は積み重なり、1400mほどになる。それが、弱気になる原因なのだ。
 
ヒロポンと握手をし、感謝の言葉を投げかけた。彼女は恐縮していたが、今朝、彼女と出会わなかったら、決してピークには行っていないし、幻の花は、その名の通り、幻で終わっていたのだ。そして、彼女のレンズがなかったら、この記録も残せなかったのだ。何たって、彼女は、今日、2度もピークを踏んでいるのだ。
 
彼女と別れ、層雲峡の黒岳の湯に入ったとき、午後8時を過ぎていた。高速では眠くなるからと、一般道を走った。ママは助手席でグッスリだ。ママも疲れているに決まっている。当別に着く頃、僕の集中力が散漫になってきた。コンビニの駐車場で少し仮眠をしただろうか…。記憶にない…。家に着いたのは、日付が変わり、午前2時過ぎだった…。
 
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トカチビランジ
 
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4928×3280ピクセルの等倍をトリミング
 
 
この花の記録を公開することに、賛否両論があるかも知れない。しかし、僕は、人間の良心を信じる方の「生き方」を選ぶことにしている。例え、裏切られたとしてもだ。それが、山に登ることの理由のひとつでもあるからだ。「そっと野に置け蓮華草」という言葉は、自分の人生にも当て嵌まる。それぞれの生き方を尊重してこそ、共生は成立するのだと思っている。
 
山にも、そこでしか生きていけない生き物がいる。動物にしたって、植物にしたって…。それらは、間違いなく、人間たちよりも以前の時代から生き延びているのだ。生き延びるだけの、理由があるからに外ならない。そして、それらの命のひとつひとつは、人類誕生の礎になっている事を否定出来ない。つまり、僕らのために、生き延びてきたのだと言っても、過言ではない。そんな大切な命を摘み取ることも出来るのが人間だったりする…。モンスター化した恐竜の道を辿るのか、自然界の一員として生き延びることを選ぶのか…。
 
人を寄せ付けないニペソツの岩礫に、へばり付くように咲く、孤高の花トカチビランジは、きっと、そう語りかけてくるに、違いない…。人間たちこそが、「幻」にならないように…と…。
 
 
使用機材 カメラ Nikon Df  
     レンズ Ai AF Zoom Nikkor 28-105mm F3.5-4.5D(IF)
         AF-S VR Zoom-Nikkor 70-300mm F4.5-5.6G IF-ED(借り物)

by meo_7 | 2015-08-04 15:11 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(6)
Commented by yah-_-yah at 2015-08-04 16:48
壮絶なニペソツ山行、お疲れ様でした。

幻のトカチビランジをカメラに収めることが出来たのですね。
ウメシュンさんの本にも書いてましたが、やはり崖の上に咲いてるのですか。
たとえ咲いてたとしても見つけるのが大変そうですね。
確かに「孤高」という言葉が似合う花ですね。

それにしてもこのトカチといい、カムイといい、見るだけでも大変な花ですね。
アポイマンテマで我慢しとくかー、ってことになるわけです。
(アポイマンテマに失礼ですね)

でも元々はもっと見やすい場所にも咲いてたのかもしれませんよね。
心無い人の盗掘によって、人間の手が届かない場所に咲いてる物だけが残った、、、のかもしれません。
Commented by meo_7 at 2015-08-04 17:32
yahさん、ありがとうございます。
 
やはり、ニペソツは、僕とママには敷居が高くなりました。
でも、何とか、トカチビランジに間に合う体力がありました。

文中に登場するヒロポンさんは、今週、カムイビランジに会いに行くそうです。
僕は、カムエクを訪れたとき、てっきり、カムエクの稜線に咲くものだと思い、ピラミッド峰を訪れないで帰ってきてしまいました。
予定では、カールに2泊して、ピラミッド峰も行くはずでしたが、雨具を失い、諦めて戻ったのです。
今も、その決断を後悔していますが、装備を失ったら撤退するのが鉄則ですから、仕方がありませんね。
 
トッタベツ〜幌尻岳間にも咲いているので、是非、訪れてみて下さい。
僕には、もう無理ですけど。
 
Commented by hiropon at 2015-08-05 09:17 x
まさかニペソツでご一緒することになるとは思ってもみませんでした。
孤高の花をひとりで見に行く!と息巻いていた今シーズンでした。
でも、山頂で出会った花追い人の男性と一緒にトカチビランジを見て、
その後、オイちゃんたちと一緒に見て、感動を分かち合うということの快さを体感しました。

300ミリレンズ購入の一番の理由は花を写すためでした。
あの日、3台のカメラで使用しました。本望でした。

ご一緒できて嬉しかったです。
珈琲もとても美味しかったです。
ありがとうございました。
Commented by meo_7 at 2015-08-05 16:35
ヒロポン、こんにちは。

まさかの再会で、ようやく念願の花にお目に掛かれました。
しかも、登り返してくれて、レンズも貸してくれて。
僕たちだけだったら、見付けられなかっただろうし、見付けても、あの距離じゃ、写真にならなかったと思います。
感謝感激のヒロポン様々です。
 
もう、大変な山には、なかなか行けないので、何処かの山で会うこともないかも知れませんが、見付けたら、また、声を掛けて下さいね。
 
本当に、ありがとう。
 
Commented by てばまる at 2015-08-16 17:46 x
これまた変わった花ですね~!
噂には聞いたことがありますが、マンテマの仲間にふさわしいというか異様というか? 植物好きにはそそる形ですね(^-^;) 見てみたい物ですが、なかなか大変な山のようで・・・ 見てみたい花が北海道には多くて困ります(^-^;)
Commented by meo_7 at 2015-08-17 12:11
別名、スガワラビランジと言われます。
近くで見られないのが悩ましいです。
しかも、後ろ姿なんですね。
近寄ろうと思うと、ロープの確保無しでは危ないです。
ただ、山頂から踏み跡のある尾根があるのですが、そこを辿れば、新しい株がありそうな気がします。
 
でも、もう、それを探すだけの気力がありません。
日帰りでギリギリの山になってしまいました。
 


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