憧れの花は、孤高に咲く… Day 1(2016/08/07〜09)

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青年の名前は、通称、「おかでぃ」と言う。歳の差を考えると、息子のような存在だ。昔の自分に、ちょっとだけ似ているところもある。そんな青年が、
 
「オイちゃん、憧れの花を見せに連れてってやるよ。荷物は担ぐから…」
 
と、冗談だか本気なのか、そう言ったことがあった。僕としても、「おお、介護登山をしてくれるのか?」などと、軽く受け流していた。介護登山という言葉が、世の中にあるのかどうかは分からないが、僕は、冗談交じりによく使う。しかし、僕にだって、少しばかりの自尊心が無い訳ではないので、こちらから積極的に頼むことはない。でも、結局、甘えてしまうのだ。ママは、最近足が痙るので、今回は見送るという。二人だけかな?と思っていたら、クライミング仲間のさっちゃんが、連れていって欲しいと言う。僕は、すかさず、荷物を持ってくれるなら良いと、条件を提示するが、あっさりOKだった。これで、楽になれると、内心ほくそ笑んだのは、内緒にしておこう。
 
憧れの花は、山奥深く咲くという…。それも、日高山脈の急峻な尾根の岩礫に咲くのだから、僕のようなお気軽ハイカーが、簡単に行けるところじゃない。以前、1度だけ、カムイエクウチカウシ山に挑戦している。残念ながら、アクシデントもあり、咲いていると思われる場所に行けなかった。2006年の事だから、あれから10年の歳月が過ぎている…。さて、「介護登山」の全貌は…。




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駐車場はいっぱいで路駐の列…
 
 
8月7日、チロロ林道に入り、北電のゲート前の広場に着くと、思わぬ車の数にビックリだ。日曜日だから、入山者は日帰り組と、今日下山する人たちの車が多いのだろう。車から降りると、アブの大群が襲ってくる。尋常な数じゃないので、支度するにも必死だった。何とか、被害もなく、無事に出発したのは、午前8時15分だった。通常より遅い時間ではある。今日の目標は、北戸蔦別岳の山頂だ。コースタイムで6時間半ほどだが、少なくとも僕は、そんな時間では歩けない。1.5倍を見積もると、9時間超の長丁場だ。
 
取水ダムまでの、約3キロの林道歩きがある。これが地味に辛い。しかし、アブの襲撃はなくなり、長い旅の始まりは、静かに始まった。
 
さて、荷物だが、僕の背負っているものは、個人装備だけ。山中2泊に必要なテント、食糧など共同装備は、おかでぃとさっちゃんが背負っている。行動用の水は1.5リットル背負うから、僕も軽いというわけではない。しかも、途中のトッタの泉で水を摂り、山頂まで担ぎ上げなくてはならない。そこからは、地獄の苦しみに等しい記憶しかない…。
 
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エゾスズラン
 
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林道の終点は取水ダム
 
 
順調に取水ダムに着く。ここからは登山道になる。基本的に沢沿いの道が続き、渡渉も繰り返す。台風の動向が気になる天気予報だが、少なくとも、今日一日は天気が良い。台風の進路によっては、1泊で戻る可能性も含めて計画している。それは、沢の増水という問題もあるからだ。一気に水量が増えると、帰還困難な状況になるのが、沢の遡行だ。
 
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登山道に入ると、雰囲気は一変する…
 
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水量は、登山靴でも問題ない
 
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足下に注意
 
 
天候に恵まれたが、とても暑い。湿度も高く、その上に風も無い。ジリジリと焼けるような日射と、蒸し風呂にいるような蒸し暑さ。僕の消耗戦の始まりだった。
 
二の沢を登ってゆくと、滝が見えてくる。その手前の左岸に、尾根の取り付がある。ここからが、日高の山の洗礼を受けるところだ。激しい急登が待ち構えている。初めて訪れると驚き、2度目からは憂鬱になる。次第に、僕は遅れがちになる。荷物は軽くても、同じ事だった。トッタの泉に着いた頃、ほぼ限界だった。トッタの泉は、湧き水だ。冷たくて美味しい。何度も喉を潤すが、焼け石に水のようだ。摂取する水よりも、吹き出す汗の方が遙かに多い。僕は、熱中症気味の感覚を覚えた。もう、無理は出来ないので、自分のペースで歩きたいと申し出る。
 
おかでぃは7.5リットル、さっちゃんは5リットルの水を担いだ。炊事用と明日からの飲料水の分だ。計画では、僕が2.5リットルを担ぐはずだったが、僕に担げ、と言う者はいなかった。
 
トッタの泉を過ぎても、尚、急登は続く。彼らにしてみれば、水の分だけ重さは嵩んでいる。しかも、僕の分まで背負っているのだ。それなのに、その歩みは衰えない。さっちゃんも、若いおかでぃに、ピタリとついて行く。僕はというと、ゼーゼーと喘ぎながら、数歩進んでは立ち止まる。頭がボーッとしてくる。身体全体が熱く感じるのは、良い兆候ではない。それでも、集中力だけは途切れないように、稜線までは頑張ろうと、言い聞かせながら歩いた。
 
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アリドウシラン
 
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トンボソウ
 
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コイチヨウラン
 
 
急斜面の林内には、野生蘭が見られた。余裕があれば、ゆっくりと、良い個体を見付けて撮影したいが、疲れすぎて、そんな気になれない。ザックを下ろすと、もう2度と担がない気がするからだ。久し振りに、疲労困憊の山行になった。
 
幾分、斜度が緩くなり、木々の間からチロロ岳が見えてくると、稜線は近い。下山してくる人たちに、先行している二人のことを訊ねると、ヌカビラ岳を登っているという。二人も苦しんでいるだろう。何たって、僕の分も担いでいるのだから…。
 
見上げると、真っ青な空が拡がっている。登山道は左に折れ、緩やかな勾配で斜上する。正面に、ヌカビラ岳稜線のかんらん岩が見えてくると、日高名物の激しい急登の終わりも近付いてくる。
 
やがて、登山道は、かんらん岩の中に入ってゆく。春には、カムイコザクラが咲く道だ。その時季は、沢には雪渓が残り、雪解け水の勢いとか、雪渓の崩落だとか、色々と危険な要素も加わり、登山としては、結構シビアな条件になる。簡単には出会えない花だからこそ、憧れるものだ。今回の山行の目的も、そこにある…。
 
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かんらん岩の岩峰
 
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ミヤマアケボノソウ
 
 
最後の急登は、ハシゴ場を2つほど乗り越して、天空へと続く。苦しい登りの終わりを告げるのは、日高山脈の絶景だった。ヌカビラ岳の肩に到達すると、目の前に拡がる光景に、目を奪われる。しかし、まだ、先は長い…。
 
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トッタベツ岳・幌尻岳
 
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北戸蔦別岳
 
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チロロ岳方面
 
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トッタベツ岳
 
 
ほぼ平坦に見える稜線も、小さなアップダウンを繰り返す。それでも、少しずつ近くなる目的地…。稜線を吹き抜ける爽やかな風が、火照った身体を冷やしてくれる。最後のコルに到達し、後ひと登りというところで、おかでぃが笑顔で迎えに来た。僕のザックを取り上げ、信じられない元気さで歩いている。僕の足はヨロヨロで、完全にへばっていた…。長く、苦しい道のりだった。
 
テントは、一等地に張られていた。どのくらい待ったのかは、敢えて、訊かなかった。自信を無くしたくないからね…。夕食を終え、日高の山並みがシルエットになる頃、赤い陽が、西の空に沈みゆく…。その夜、風が、テントを揺する音で、幾度か目覚めた…。  
 
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NIKON1 V3
1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM


by meo_7 | 2016-08-13 10:32 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(2)
Commented by hiropon at 2016-08-22 15:51 x
こんにちは。

先日はお疲れ様でした。
いつも素晴らしい仲間に囲まれているのは、オイちゃんのお人柄ですね。

昨年もニペソツでばったり、今年もばったり、ビランジつながりですね。
ややピークを過ぎていましたが、しっかり咲いていました。
トカチビランジは優雅なイメージ、カムイビランジは素朴で愛らしい花だなと思いました。
どちらもこれぞまさに高嶺の花!

今年は体調がすぐれず諦めていたのですが、直前になってダメ元で行ってみようと奮起しました。
仲間の助けもあって花と初対面できました。

私は脳のどこかに障害があるのではと思うほど、人の顔を覚えられません。
だからイメージで覚えるようにしているのですが・・・。
いつも気が付くテンポが遅くてごめんなさい。

またどこか花の山でばったり出会えると嬉しいな。
Commented by meo_7 at 2016-08-22 17:11
ヒロポン、こんにちは。
絶対に、花繋がりの縁があるよね。
咲いていることが分かったときには、体力が衰えて、諦めていたのです。
サポートしてくれるというので、頑張りましたが、やっぱり、遠い道のりでした。
でも、感謝感激の出逢いでしたよ。
 
大平山のチシマリンドウ、ニペソツのトカチビランジ、そして今回のカムイビランジ。
全部、ヒロポンに教えてもらった出逢いだね。
 
やっぱり、山の花旅は、いいねえ…。
 
また、どこかで、よろしくね…。


時々、想うこと…


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