憧れの花は、孤高に咲く… Day 2・Day 3(2016/08/07〜09)

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翌朝、昨夜の風はなんだったのかというほどに、穏やかで静かな夜明けを迎えた。黎明の空が、徐々に明るくなり、山陰から朝日が浮かび上がる。東の空の雲が、その陽光を、幾分弱めていたが、充分に光は届いた。天気予報は、良い方に外れ、今日も雲ひとつない青空が拡がっていた。





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夜明け
 
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朝陽を浴びるトッタベツ岳
 
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1967峰方面
 
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ヌカビラ岳方面
 
 
午前6時、テン場を出発する。僕は、昨日の疲れが残っているので、憧れの花に出会えたところで引き返すという計画。ふたりは、幌尻岳山頂を踏んで戻るという計画だ。先ずは、北戸蔦別岳から一気に下る。早朝なのに、既に気温が上がり、ほぼ無風状態で蒸し暑い。僕にとっては、今日も過酷な一日になりそうだった。
 
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トッタベツ岳へ向かう
 
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連なる山並み
 
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アズマギク
 
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今日も元気な二人
 
 
トッタベツ岳に向かう稜線は、アップダウンを繰り返し、斜面の東側、西側を幾度か交互に通過する。東側は概ね、草原のお花畑が展開し、西側は這松帯になる。8月の上旬に訪れるのは初めてだが、素晴らしいお花畑が拡がっている。ゆっくりと出来る余裕があれば、花好きには堪らない道行きだろう。特に、かんらん岩が積み重なっている辺りには、珍しい花も多く、つい、キョロキョロしてしまう。しかし、今日の僕は、何故か撮影枚数が少ない。
 
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ユキバヒゴタイ
 
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カトウハコベ
 
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北戸蔦別岳を振り返るとテントが見える
 
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こんな稜線上も歩く
 
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ムシトリスミレ(終わりかけ)
 
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頼もしいリーダー
 
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人妻のさっちゃん

 
  
トッタベツ岳まで1時間半くらいのコースタイムだが、僕たちは、のんびりと歩く。勿論、僕に合わせてくれているのだけど…。トッタベツ岳が近付いてくると、幌尻岳までの吊り尾根の向こうに、カムイエクウチカウシ山が見えてくる。あの山域にも、憧れの花は咲いている。
 
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ボルダリングを楽しむリーダーは余裕です
 
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墜ちないでね…
 
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トッタベツ岳への登り
 
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北日高の稜線
 
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1967峰がカッコイイですね
 
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まだまだ登る…
 
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タカネナデシコ
 
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もう直ぐピーク
 
 
さすがに、尖った頂きを持つトッタベツ岳の最後の登りはきつかった。山頂で休んでいると、もの凄いスピードで稜線を歩いている人が見える。なんか、あっという間に山頂に到達する。トレイルランナーの出で立ちだ。当然、日帰りなのだが、その軽装備には驚く。時代は、変わってゆくものだね。勿論、軽装備といっても、必要充分なものは持っている。装備といっては良いのかどうかは別にして、強靱な体力とスピードを備えているといえば、それも、装備のひとつに違いない。互いの記念写真を撮ってあげたり、暫く談笑して、彼は、七つ沼カールを見下ろす稜線へと走り去っていった…。
 
さて、僕たちも行こう…。憧れの花に逢いに…。
 
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七つ沼カールを見下ろして
 
 
七つ沼カールは別天地だという。僕は、その地に下りたことはない。人にとって別天地は、山の住人のヒグマにも別天地らしい。餌場になっているらしく、頻繁に出没するという。カール底に下りるときは、ヒグマのいない事を確認してからと、言われている。
 
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日高名物の這松漕ぎ
 
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エゾシオガマ
 
 
カールに下り立つには、二つのルートがある。一本はトッタベツ側からであり、もう一本は幌尻側からである。ルートといっても、管理された登山道ではなく、踏み跡が出来ただけの道だ。元気な二人に頼んで、下りてもらう。カール底にあるといわれる湧き水の確認をしてもらうことだ。大凡の場所は、ブログ仲間の yahさんに教えてもらってある。僕は、下りても登り返す元気がないので、そのまま、稜線を散歩することにした。
 
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カール底に向かうふたり
 
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幌尻岳が近付く
 
 
カールを覗き込むと、いくつかの沼は、まだ水を蓄えている。しかし、この時季、それは、雪解けの水だったり、激しい雨の後の水たまりだったりする。秋には、完全に干上がっているのだ。ただ、一箇所、植物が繁茂し、水の流れらしきものがあるのを、秋に訪れたときに見た記憶があり、その時に撮影した写真を見ると、そんな様子がうかがい知れる。しかし、湧き水があるという情報は、広く知れ渡っているわけではなく、僕も、確信には至らなかった。
 
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2009年秋撮影(トリミング)
 
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今回の撮影
 
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さっちゃん撮影
    
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幌尻側のルートを登り返すふたり
 
 
稜線に戻ってきたふたりは、相変わらず元気だった。件の湧き水は、細いながらも2箇所で見付けられたそうだ。万が一の時には、命の水になるだろう。実際、昨日、擦れ違った日帰りの何人かは、水を切らして、トッタの泉までの時間を訊ねてきていた。昨日今日のように、蒸し暑い日は、水の消費量が増える。消費を抑えると、身体がバテてしまう。何より、脱水症状や熱中症が怖い。真夏の日高の稜線は、そんな危険とも隣り合わせなのだ。
 
その時は、呆気なくやってくる…。
 
「おいちゃん、何か咲いてるよ。これか?」
 
と、おかでぃが、呼ぶ。僕たちは、実際に見たことのない花だから、おかでぃも半信半疑なのだろう。僕も、後に続く。そこは、登山道からは見えない。何人もの人が、そこは通り過ぎてしまうだろう。
  
「これだよ、これ、やっと逢えた…」
 
本当は、もっと何か叫んだ気がするが、よく憶えてはいない。今目の前に咲いているのが信じられないくらい、長い年月を費やしたのだ。遠くに咲くこと、真夏の暑い季節だということ、色々な条件が重なって、半ば諦めていた憧れの花、カムイビランジが、目の前にある…。それは、旬を過ぎていて、枯れている花も見られるが、間に合ったというべきだろう。撮影にも、難しい場所だった。うっかりすると、墜ちてしまう場所だ。ギリギリ近付いてみるが、思うようなフレーミングは出来ない。そんなことは、もう関係なかった。
 
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カムイビランジ
 
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孤高に咲く
 
 
それはまさしく、断崖絶壁の岩壁に、へばり付くように咲いていた。殆ど、人を寄せ付けない場所だ。将に、孤高の花だ。広く分布しない訳は、何なのだろうと思う。北海道の日高山脈に稀に見られるという説明は、本当のようだ。それも遙かなる道を辿った末に見られるという。僕が確認できる場所のいくつかは、僕の力では、もう行けない…。この場所だって、そうだ。おかでぃとさっちゃんが助けてくれなかったら、辿り着けなかったかも知れない。
 
おかでぃとさっちゃんは、幌尻岳に向かって歩いて行った。僕は、その場に小一時間も佇んでいた。きっと、もう逢えないだろうという思いが、そうさせているのだった。
 
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もう一箇所は、とても近づけない…
 
 
やっとの思いで、その場を去った。ゆっくりと、ゆっくりと、トッタベツ岳への吊り尾根を戻ってゆく。花は、たくさん咲いているけれど、カメラのレンズを向ける事もなくなった。鮮烈な思い出を、まだ、残像として留めておきたかったのではないか…。
 
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トッタベツ岳山頂
 
 
天気は、やはり下り坂なのだ。台風が近付いているのだから、当然だ。雲が拡がり、幌尻岳の山頂も雲に覆われる。歩くには、涼しくなって心地良い。1リットルで足りると思っていた水も少なくなってきた。吊り尾根を見下ろすと、ふたりが歩いてくるのが見えてきた。さすがに時間が掛かっている。幌尻岳山頂は、激しい急登の肩を登り切ってからが長いのだ。
 
六の沢の分岐で、合流する。というか、追い付かれる。ふたりとも、水は心許なくなっていた。最後の、北戸蔦別岳の登り返しも辛いものだった。僕たちの目標は、達成した。
 
この夜、強い風とともに、激しく叩き付ける雨音が襲っていた。翌朝の沢の増水が気掛かりだったのは、リーダーのおかでぃも一緒だっただろう。約1時間ほどで雨音は聞こえなくなった。
 
翌朝、3時に起きる。朝食を済ませ、手早く撤収する。辺りは、深い霧に包まれているが、雨粒は落ちていない。午前5時半、北戸蔦別岳を出発する。
 
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撤収を終えて
 
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視界は悪い
 
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リンネソウ
 
     
ヌカビラ岳までの稜線は、比較的穏やかだった。風が強いわけではないので、台風の直接的な影響ではなく、天気が崩れただけだろう。しかし、僕たちは安心はしていない。雨が降り始めると、危険は増大してゆく。二の沢の増水は、過去に下山中のパーティーが身動きできなくなって、救助を要請したことがある。
 
1度も休憩せずに、トッタの泉まで歩き続けた。急斜面の下りは、容赦なく足を痛めつけるが、仕方がない。トッタの泉で、さすがに、休んだ。冷たい湧き水が喉を潤す。幾ら飲んでも、喉の渇きは収まらない。
 
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ジンヨウイチヤクソウ
 
 
再び、急斜面を下り始める。こんな天気でも、登ってくるパーティーがいる。そのうちの何人かは、既にへばっているようだ。そうか、僕だけじゃないんだな、と思ったりする。みんながレインウエアを着ていたので訊ねてみると、ずーっと小雨が降っていますよ、という返事が返ってきた。
 
尾根の樹林帯から、二の沢に出ると明るくなるが、やはり、小雨が降っているではないか。樹林帯を歩いているから気付かなかったわけだ。沢の様子を見ると、2日前よりは明らかに増水している。しかし、登ってきた人たちがいるのだから、下りるにも支障のない程度だ。つまり、今のところ、渡渉可能だということだ。
 
リーダーの判断は、二の沢の出合までは止まらずに下りきってしまう、というものだった。僕も、大賛成だった。危険地帯は、そこまでの道のりにある。もし、激しい雨が降ってきたら、一気に鉄砲水が襲ってくる可能性だってあるのだ。リスクは最小限に…、それが鉄則だ。 
 
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さっちゃん撮影
 
  
夢中で、歩き続けた。最後の渡渉を終え、二の沢出合の手前の安全地帯に着いた。ザックを下ろし、座り込む。3人に、今日、初めて、安堵の表情が浮かんでいた。
 
「何か、今回、フルコースで楽しんだな…」
 
僕は、そう呟いた…。素晴らしい山旅だった。強力なサポートの元、僕の夢が叶った。しかし、それよりも、犠牲を厭わないで、全力で、僕をサポートしてくれたふたりへの感謝の念が、何よりも感動を呼ぶのだった。
 
そして、何よりも、当のふたりは、それを特別なこととも思わないで、僕の日常を、さり気なく、取り戻し、普段のままなのだ…。ホント、素晴らしいね…。
    
     
NIKON1 V3
1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM


by meo_7 | 2016-08-14 01:32 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(6)
Commented by yah-_-yah at 2016-08-14 20:54
遂にカムイビランジに会うことが出来たのですね!
おめでとうございます!

僕も一昨年幌尻に行った時には、当初はお盆休みに行く予定でした。
しかし悪天候で中止、9月の連休になったのです。
もちろん、カムイビランジに会いたくて8月予定だったのですが、、、

カムイビランジはだいたい8月の第2週に咲くと聞いていたのですが、既に終盤だったようですね。

しかし8月の暑い盛りにこのルートを歩くのはキツいですねぇ。

七つ沼の湧水は今もあることが確認出来てよかったです!
Commented by meo_7 at 2016-08-15 16:58
yahさん、こんにちは。
やっと、辿り着いて、カムイビランジと対面できました。
6月と9月の2回、このルートを歩いているのですが、盛夏の季節は、やはり、きつかったです。
先ず、水の消費量が倍以上になってしまいました。
身体の発熱も凄かったです。そういう体質になってしまったようです。
しかし、こんな時季にしか出逢えませんから、仕方がないですね。
 
今回、初日は、日帰り登山者が多かったのですが、ヌカビラの下りで、水を切らしている人が何人もいましたし、北戸蔦別岳山頂では、2泊目の人が(本当は1泊で帰る予定だったそう)、水を切らしたというので、分けてあげたりと、どうやら、水の問題が夏の日高では重要ですね。
 
幌尻岳の日帰り往復は、そんな意味で、準備が万端でないと大変でしょうが、カムイビランジだけが目的なら、健脚者なら、楽な日帰り出来るかも知れませんね。
 
ぼくらは、 もう、無理ですけど…。
Commented by てばまる at 2016-08-19 09:36 x
いや~お疲れ様でした。
なんだか読んでるととてつもなく遠い遠い場所のようにも見えてしまいますが、実際長いのでしょうけど・・・ 素晴らしい山友がいるというのは幸せですね。しかし水をそんなに運ばないといけないというのはあまり経験がないので凄い2人です!!! 

カムイビランジ、個人的にはきっと見ることは無いのでしょうが、険しいところに咲いているようですね。探せば撮影しやすいところにあるのかもしれませんが・・・ たしか知り合いがここに日帰りで行ってカムイビランジ見てきてます。

Commented by meo_7 at 2016-08-19 13:27
てばまるさん、こんにちは。
年々衰えていくので、どんな山も、段々と遠くなります。(笑)
このルートは、幌尻岳往復となると、山中1泊が通常なのですが、水の担ぎ上げによる重荷と、テン場の確保、沢歩きの知識などの問題もあり、そもそも、人の入らないルートでした。
 
近年、ネットの情報などで、入山しやすくなり、健脚者が日帰りの報告などをしてから、人気のルートになりました。
それも、従来の幌尻山荘を使うルートが完全予約制になり、使いにくくなったことも一因かと思います。
百名山である幌尻岳人気も理由になるかと思います。
 
実際、日帰りの人の殆どは、ツアーだったり、個人パーティーも、幌尻岳登頂が目的でした。
ツアーは、途中の、二の沢出合というところにテントを張り、ベースにしたようです。これですと、片道2時間弱を短縮出来ます。
幌尻岳を諦めて、カムイビランジだけを目的にすれば、案外楽に日帰り出来ると思います。
 
いずれにせよ、熊の痕跡も非常に多く、ヘッデンを使うような時間には歩きたくないところなので、僕には、もう、日帰りは無理ですね。 
 
南アルプスのタカネビランジを見てみたいです。
同じ仲間ですよね。
Commented by てばまる at 2016-08-19 20:35 x
タカネビランジも普通の登山道沿いでは少なくなってるようです。確実にあるのはきつい階段が続く八本歯のコル付近です。バットレスには大きな株がありますがとてもじゃないけど行けません。コル意外で見れるのは北岳山頂ですが、大きな株です、でも踏まれないように石で囲まれて花壇状態なのでちょっと野生らしくないです。今年行ったときはまだ小さな蕾でした。
タカネマンテマとセットで見ようと思ったら、どうしてもぐるっと山頂経由で一周しないと見れないのでなかなかキツイですよ~ 

2泊なら、広河原-白根御池泊-八本歯-北岳山荘泊-北岳山頂-肩の小屋-草すべりまたは右俣、森林コースで下山が良いカモです。北岳山荘に2泊すれば間ノ岳も行けますね。来年は何とか北岳山荘にテント2泊して間ノ岳も狙いたいです。
Commented by meo_7 at 2016-08-20 09:30
北岳は、どうしても長丁場で、しかも蒸し暑い時期なので、体調管理も必要ですね。
タカネビランジは白花とピンクがあるそうですが、北岳は白い方ですね?
花の種類も魅力的ですし、行っておくべき山でした。
 


時々、想うこと…


by MIURA@オイちゃん

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