富良野岳は、雲の上…

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富良野岳は、花の名山としても知られている。雪解けと共に咲き出す花は、北海道の短い夏を謳歌する…。幾度訪れたのか、記憶にない…。花の名山、という冠を戴いた宿命ともいえるのか、多くの人たちが訪れ、山は、荒廃した…。曾て、エゾルリソウは、至る処に咲き、富良野岳の山頂を彩っていた。今では、悲しいロープによって囲まれている。囲まれるべきは、人間の方だと思うのに…。    
 
今回の主人公も、トップの写真の女性です。初めて訪れる富良野岳…、勿論、ピークは目指します。花の山旅を、楽しみながら…。





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恒例になるのか…、旅立ちのとき…
 
 
前夜、十勝岳温泉の駐車場は、深い霧の中に包まれていた。朝4時に目覚めて、外に出ても、その霧は消えていなく、夜半には雨も降った形跡があった。歩いていると、シャツもうっすらと濡れてくる…。
 
午前6時半、雨具の上衣を着て出発する。しかし、上空は明るく、このガスは抜けるような気がした…。そして、上空には青空が覗き、見る見る間に、それは拡がってゆくのだった…。
 
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ウコンウツギ
 
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ナナカマド
 
 
登山道には、森林限界直前の灌木があり、並木道のようになっている。朝露をたっぷりと纏い、キラキラと輝く…。それは、朝の光が、僕たちを照らし始めた証だった。そして、僕たちは、雲の上の人となり、富良野岳の懐へと、入ってゆく…。
 
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ミツバオウレン
 
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コヨウラクツツジ  
 
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アプローチ
 
 
安政火口の下流の渡渉を終えるまでは、本格的な登山道ではない。所謂、アプローチなのだが、これが、意外と長く感じる。しかし、すっかりと、全容を現した山々が、僕たちを迎え入れ、まだ、長い道のりの入口に過ぎないが、登高意欲を湧き立たせるのだった…。
 
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渡渉
 
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ここからが、本格的な登山道
 
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富良野岳への領域へと…
 
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尾根の乗越まで徐々に高度を上げる
 
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振り返り見る三段山
 
 
尾根を乗り越すと、暫く下り気味にトラバースし、上ホロ分岐に着く。そこまでの道のりは、目指すべく富良野岳の全容が眼に飛び込んでくる。その大きく、優しい山の姿は、花の名山に相応しく、濃い緑に覆われ、白い雪渓が輝く…。ママは、先頭を歩き、一応のペースを守りながら歩く…。花探しも兼ねながら…。
 
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富良野岳
 
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彼女と山を歩くのは、2度目だ。いつも、自分の山の経験や技量を、控え目に話す。それを、当然のように受け止める僕だから、足運びや、注意すべき点はないか、と観察するのだけれど、僕の出番は無い…。雪渓の登りも、足場の悪そうなところは、ちゃんとキックステップをしている…。彼女の周りには、凄い経験を持つ山男や山女が大勢いる…。そんな彼らと自分を比較して、自分を過小評価をしている部分は、確かにあると思う。しかし、そんな彼らも、同じ時代を経て、今がある。誰だって、最初は、よちよち歩きなのだ。
 
彼女は、冬の山行のソロを経験している。お転婆の本領発揮ともいえるのだろう。一見、無謀なチャレンジのようにも思う人は、いるのかも知れない。そうなのだろうか? ソロは、総てが自身の判断で、自己完結しなければ、無事に家に帰ることは出来ない。事実、彼女は、撤退も経験している。その判断が間違っていなかったから、今日、この富良野岳を、歩いていることが出来ている…。小さな冒険と無謀は、紙一重のところに存在している。そんなことは百も承知で、判断の誤りが、紙一重のどちら側に行くのかを決定する。実は、それを決められるのは、自分自身でしか有り得ない。パーティー山行のリスクも、そこに存在する。自分自身で決められない場面が、存在するからだ。言い換えれば、判断する必要もない山行にさえ、なる…。所謂、人任せ…だ。そうした山行を10回繰り返しても、ソロの山行1回にも満たない経験値しか得られないと、僕は、思う…。
 
彼女自身、それすら気付いていない…。それで、いいのだと、思う…。彼女の判断は、彼女自身にしか…出来ない…。
 
ママの花を探す眼も、まだ、健在だった。花の山旅の第2弾とも銘打った旅には、最高のナビゲーターだ。そして、とうとう、見せてあげたかった花が現れる…。朝露を纏ったショウジョウバカマだ。ありふれた花には違いないが、その美しさは、格別なものだと思う。「猩々袴」と名付けられたその由来に、夢も希望も見出せないけど、人間が、勝手に名付けただけのものだ。僕はレンズを向けながら、そっと、謝っておいた…。すると、ニコッと、笑ってくれるんだ。ホントだよ…。
 
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ショウジョウバカマ
 
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クロウスゴ
 
 
昨夜の雨の跡を見て、僕は、誰にも言わず、期待していたものがあった。ガラス細工のサンカヨウと名付けた、透明の花びらを抱くサンカヨウだ。降り続く雨の中、吸い上げた水が、花びらにまで到達し、水は飽和状態になってゆく…。極薄い花びらは、殆どが水分となり、その色素を失ってゆく…。花びら自体は、何も変わっていないのに…。光の反射率が変わっているだけなのに…。そして、それは、僕たちの眼には、ガラス細工のように、透き通った花びらになるのだ…。
 
サンカヨウの花期は、短い…。開花してから、花びらが落ち始めるまで、僅か一週間にも満たない…。儚い…。つまり、この間に、長雨があり、満開のサンカヨウであることの確率は、どれ程のことなのか…。この奇跡のような瞬間を目撃できるのは、極、一瞬なのだと気付く…。彼女の初めて目にするサンカヨウは、半透明の輝きを放っていた…。
 
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ガラス細工のサンカヨウ
 
 
半透明なのは、日射しが当たったからだ。乾くと直ぐに、白い花びらに戻ってしまうという…。ほんの、束の間の出逢いなのだ…。彼女の幸運は、彼女の未来を暗示しているのだろうか…。いずれにしても、総ての事に、意味のないものはないのだから…。   
 
富良野岳への登山道は、概ね、斜面をトラバースしながら登ってゆく。花が咲いていなければ、単調といえるかも知れない。雪渓の急斜面の箇所に到達する。雪の付き方によっては、難所の部類に入り、過去には、本州のパーティーが手こずっていて、助けたこともある。ママは慣れたものだから、安心していたが、彼女はどうかと、見守る…。なのに、何の躊躇いもなく、一歩一歩、確実に登ってゆく。そして、登り切った後に目に入るものは、大海原のような雲海だった…。
 
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雲の上の人になる…
 
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下界は曇りですね…
 
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ここはカメラを出さなくっちゃ…
 
 
三峰山の懐をトラバースする道は、体力的には辛くはないが、長く感じる…。行く手の富良野岳は、足の運びほどには、一向に近付かない…。珍しく、ママが、後どのくらいで分岐かを訊ねてくる。腰の不調を訴えていたので、その所為かも知れない。
 
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一向に近付かない富良野岳
 
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振り返り見る十勝岳
 
 
分岐で少し休憩をして、いよいよ、山頂への稜線へと登る。光景は、一変する。見上げる空は、徐々に拡がり、雄大な山岳風景が、拡がる…。自分が、ちっぽけな存在なのだと思い知る瞬間だ。大自然と、自分の、本当の関わりを知る瞬間だ。なんて、清々しいのだろう…。さっきまでの、苦痛も、一瞬にして、消え去る…。大いなるものは、いったい、僕に、何を与えてくれているのだろう…。このままでは、真人間になってしまう…。
 
なんてことを全身で感じながら、そよ吹く風に身を捧ぐ…。稜線は、ハクサンイチゲとエゾコザクラの競演に迎えられた。彩りを添えるのは、ミヤマキンバイ、キバナノコマノツメのイエローカラー。総てが、この大地の恵み…。すっかりと真人間になってしまっている僕は、ルンルン気分…。
 
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主人公
 
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躍動する光景
 
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この雄大な風景に包まれて…
 
 
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ソロ気分…
 
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エゾコザクラ
 
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エゾコザクラ
 
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キバナノコマノツメ
 
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エゾツガザクラ
 
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ミヤマキンバイ
 
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チングルマ
 
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湧き上がるガス…
 
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彼女と大自然だけの…ひととき…
 
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ハクサンイチゲ
 
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美しき光景
 
 
僕が、真人間になっている頃、見上げると、ママと彼女が、僕の浪漫を無視して、本来のピークハンティングに、ギアをシフトチェンジしていた。力強い足取りに、僕は追い付くはずもなく、喘ぐばかりだった…。男の浪漫を到底理解出来ぬ、天然のふたりは、山頂稜線の這松の陰へと消えていった…。
 
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山頂へ
 
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山頂にて
   
   
山頂でのひとときは、各人それぞれの感慨に浸っているのだろうか…。そんな中、僕だけは、赤の他人を旧来の友のような軽口で会話をする。久し振りに、思い掛けぬ声も掛けられ、僕の書く文章と人柄が違いすぎる戸惑いを覚えたかも知れない…。それを見ているママは、慣れたものだが、彼女にとっては、どうやら迷惑らしい…。元々、人見知りでシャイな性格だから、僕の人としての軽さには、ついては来られないだろう。途端に他人のフリをする姿が、滑稽だ…。まあ、天然ぶりは健在で、「手袋紛失事件」など起こしてくれて、この山旅のエッセンスになった…。もっとも、手袋は、無くしてもいないのだけど…。
 
山頂を後にする。僕だけは、もう来られないかも知れないと、そっと標識に手を触れて、心の中で呟いた。予想通り、気温が上がると、雲が湧いてきた。下界を覆っていた雲が拡散し、上昇してくるのだ。山を旅するものにとっては、好都合だったりする。風景に躍動感が出て、強い日射しも和らげてくれる…。
 
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ガスが湧き上がる稜線
 
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雪渓のトラバース
 

  

彼女は、こう呟いたことがある…。

「よく、山に登る理由を訊かれるけど、分からない…」

それが、正解なのだろうと、僕は思う。分からないから、また、山に向かうのだろう。きっと、山には、彼女の探している「何か」が、あるのかも知れないと、自分も気付かないまま、歩き続けるのだ。言い換えれば、彼女自身の、山に向かう「理由」を探しに行っているのだろうか。その答が見つかるのかどうか…、それも、関係ない。それすら受け止めてくれるのが、「彼女の山」だと、知るときが訪れる…。
 
人は、居心地のよい場所、帰るべき場所を求めている。それを、僕は、「心の故郷」と、呼ぶ。それは、いったい何処にあるのだろう…。長い旅路の果てに、それは、自分自身の心の中に宿ることを知ったとき、彼女は、もうひとりの自分に出逢う…。日常の挫けそうな日々、逃げ出したくなる弱い心、その一切合切を持って、心の故郷へ還るのだ。そこには、いつも、優しい笑顔で迎えてくれる、本当の自分自身がいるのだから…。
 
彼女は、きっと、そよ吹く風に…なる。それは、大自然の息吹になるということだ。それは、ありのままの自分になるということだ…。森を住処とする森の住人たちに、迎えられたと感じることが出来たとき、彼女の何もかもが、大いなるものに抱かれ、ひとつになってゆく…。そこが、心の故郷…。
 
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ママは、密かに慕われている…
 
 
言い忘れないうちに書いておきますが、僕は、下山した途端に、魔法から解き放たれ、以前のちゃらんぽらんな人間に、無事に戻りました。真人間のまま、下界で生き抜くには、もう少し修行が必要です。だから、再び、何処かの山を目差します。足腰の立たなくなるまで…。参考までに、これは、ちゃらんぽらんな人間の「誓い」であることも、心に留め置いて下さい…ね。
 
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サービスショット
 
何処かの山で見掛けたら、そっとエールを送ってあげて下さいね…
 
彼女の、夢を繋ぐ旅への…

 
 
Nikon Df
AI AF Zoom-Nikkor 24-85mm f/2.8-4D IF

by meo_7 | 2017-07-05 23:33 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(2)
Commented by windy1957 at 2017-07-06 10:23
いいね、やっぱり。
不思議だけど、羅臼岳の雪渓でへばってしまった苦い思い出
が甦ったりしてね。あの時も、こんなふうにエゾコザクラが
風に揺れてましたよ。

今季の至仏山は、残雪が多くって難儀するみたいですね。稜
線に咲くあのチングルマの写真… 
週末、迷ってたけど、やっぱり登ってこよっと。
Commented by meo_7 at 2017-07-06 11:39
翼さん、ありがとうございます。
  
山が、そこに咲く花が、大好きだという人との山旅で、僕も、何かを刺激されたようです。
幾度も訪れたはずの富良野岳ですが、何か新鮮な気持ちに包まれました。
 
マンネリ化していた僕の感性を揺さぶってくれたのかも知れませんね。

とても、尾瀬が恋しくなりましたよ。
僕の原点ですからね…。      
翼さん、あの花に出逢ったら、よろしくね、と言っておいて下さい。 

この物語の女性が、いつか尾瀬を訪れたとき、エスコートをお願いね…。


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