花の山旅 ニセイカウシュッペ山(後編)

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大槍にて…
 
 
 さて、後編です。彼女と、新たなパートナーの爽やかさっちゃんの旅は続きます。憧れの人と歩く彼女は、子供のような心境かも知れない、超天然の、爽やかさっちゃんは、そんなこと関係なく、自分のことしか考えてないだろうと思っていたが、そうではない。寄り添うように歩く彼女の話に耳を傾け、時折、花の撮影に付き合う。僕は、完全に失業状態だった…。




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寄り添う…
 
 
 山頂間近のコルには、アンギラスへの踏み跡がある。本来、バリエーションルートなので、整備などはされていないと思うが、近年のブームの為か、ハッキリとした登山路になっている。早春には数は少ないが、ツクモグサが咲く。道内では、比較的容易に出逢える場所だろう…。その一角の這松帯に、タカネシオガマが咲いていた。平山での印象があったので、僕には、新鮮な出逢いだった。今まで、見逃していたんだな、と思うと、僕も、まだまだだなあと気付いた。
 
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タカネシオガマ
 
 この辺り、土壌が違うのか、チシマギキョウの花弁の切り込みが深い。表大雪に咲くそれとは、趣が違う。殆ど筒状の花なのだが、この辺りのチシマギキョウは、花弁が、大きく開いている。そう言えば、萼片が緑色のハクサンイチゲを見たのも、この辺りだった。厳しい環境に身を晒す高山植物は、姿形も変えて…、その環境に見合った生き方をする。それも、浪漫だね…。
 
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チシマギキョウ(彼女の撮影)
 
 
 いよいよ、山頂へのプロムナードが始まり、この旅の半分を終える時が近付いた…。さっちゃんは、既に到達しており、彼女を待ちながら、寛いでいるだろう…。花々の道は、最後まで続き、僕たちを迎え入れる。山頂は、僕たち3人の独占だった。
 
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迷コンビ誕生の瞬間!
 
 
 僕には、もうひとつ、この日のミッションがあった。ふたりを山頂に残し、ひとり、探索に向かった。わざわざ訪れて、空振りに終わると、この山旅の喜びも半減するような気がした…。彼女たちには、花の名前も明らかにしていない…。僕は、期待を胸に、それでも、ゆっくりと歩いた。特別な花との出逢いだからだった。それは、不安定なザレ場に咲いているはずだ。慎重に、立ち入り、一歩一歩、下ってゆく。将に、旬の花は、瑠璃色に輝いていた…。エゾルリソウとの出逢いは、この旅の秘密兵器だったのだ。
 
 僕は、数枚の写真を撮り、再び、慎重に登り返す。彼女は、こういう場面に慣れていないかも知れないので、もう一度、安全なルートを確認し、ふたりの所へ戻った。デジカメのプレビューを見せて、
 
「この花に逢いに行くよ」
 
と言うと、
 
「わあ! 可愛い…」
 
と叫んだ…。本物は、もっと綺麗だよ、と応えたかったが、やめておいた。やはり、彼女の幸運は、本物だった。僕が、この山で、最初に葉を確認し、旬のエゾルリソウに出逢うまで、3度の挑戦だった。前回も、花は落ち、ガッカリしたものだった…。
 
 果たして、彼女は、エゾルリソウと対面した。危険な斜面に咲いているにも拘わらず、エゾルリソウの輝きは、彼女の恐怖心さえ包み込んだのかも知れない。だとしたら、大自然の魅力は、計り知れない力をも、与えてくれるのだろうか…。ふたりの、明るい表情に、そよぐ風が爽やかだった。爽やかさっちゃんの笑顔が、もっと、爽やかになって、素敵だった。ちょっとシャイではにかみ屋の彼女も、どう喜んでいいのか分からない表情が、微笑ましかった…。
 
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エゾルリソウ
 
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ミヤマアズマギク
 
 
 この日の旅の、最大のミッションは終わった…。と、僕は思っていた。しかし、アンギラスへのピストンを諦めたふたりは、大槍のてっぺんで写真を、という望みを捨てていなかった…。僕に、何の相談をするわけでもなく、同意も得ずに、ふたりは、大槍を目指す。天然たる所以だ…。大槍のてっぺんで写真を、ということは、撮影者は、僕しかいないわけだ。予め決まっていたかのように、事は運ばれてゆく。僕は、本当に、いい人だ。誰も言ってくれないから、自分で言う…。本当に、お人好しだ、あ、違う、本当に善い人だ…。
 
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リンネソウ
 
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大槍を望む…
 
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先を急ぐふたり…
 
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不気味なアンギラス
 
 
 さっちゃんが、本気モードで大槍の基部に向かい、彼女もついて行く。時折ガスが舞い、大槍を覆い隠す。僕は、ダメかな?と、呟く…。アンギラスも、ガスを纏い、不気味さをさらけ出している。幽玄の峰の様相だ…。
 
 僕はといえば、撮影場所を探すのに、苦労をしている。遠すぎると、人影は点にしか見えない。近付きすぎると、大槍の迫力は薄れる。どっちを選択するか迷ったが、人の判別が出来る方がいいだろうということで、基部近くの場所でカメラを構えることにした。見上げると、ふたりは、大槍の中間部に辿り着いていた。彼女の幸運は続いているのか、ガスは流れ、辺りが明るくなってきた。
 
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大槍に取り付いています
 
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もう直ぐですね
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凄い高度感(さっちゃん撮影)

 
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そして、頂きに…
 
 
 ふたりは、大槍のてっぺんに立った。孤高の頂きに相応しく、ふたりっきりだった。僕を、ただの撮影者にしたというふたりなのに、何故か、他人事ではなく、嬉しかった。手を振り、僕の姿も捉えたようだ。すると、ふたりは、奇妙な行動を取る。大槍のてっぺんで、アルペン踊りだ…。レンズを向け、ファインダーを覗く…。まさしく、アルペン踊りの様に、ふたりの喜びも伝わった…。僕は、笑いを堪えきれず、声を出して笑った。何という迷コンビの誕生だ。あんなに、人と打ち解けるのに時間の掛かった彼女は、爽やかさっちゃんと手を取り合って、弾んでいる…弾けている…。大槍のてっぺんで、ふたりの絆は、少しでも育っただろうか…。ふたりの信頼は、深まっただろうか…。それも、この旅の目的のひとつだってことを、ふたりは知っていたのだろうか…。
 
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アルペン踊り
 
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 ふたりは、何やら、記念撮影をしながら、なかなか下りてこない。僕は、寒くなってきたので、移動することにした。結局、大槍の登山路を辿り、途中まで登った。それでも、なかなか下りてこない。余程、楽しかったのだろうね。僕としては、より上がってきた所為で、もっと寒くなり、しかも、登っちゃいないので、なーんの感激もないわけで、それを察するなんて神経を持ち合わせていない、天然ふたり…。
 
 下山を開始するが、かなり慎重な足取りだということが確認できる。さっちゃんの撮った写真を、後から確認すると、かなりの高度感だ。クライミングの心得もあり、かなりのキャリアを積み重ねたさっちゃんは、心配ないが、彼女のことが気掛かりだ。しかし、さっちゃんは、難しい箇所は、待っていて、彼女の動作を見守っている。この瞬間、この「迷」コンビは、「名」コンビになる予感がした。信頼関係は、こうして育まれるからだ…。
 
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見守る…
 
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下りてきました
 
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ジンヨウキスミレ
 
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ご機嫌…
 
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同じく、ご機嫌…
 
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リンネソウ
 
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ミツバオウレン
 
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 彼女の旅も、もうすぐ終わる…。でも、それは、今日の旅だ。明日からは、今日までの思い出を糧に、未来図を描くのだ。その旅は、きっと、終わりのない旅になる。今日、爽やかさっちゃんとの思い出は、彼女に、どんな影響を与え、どんな糧になるのかは、分からない。出会いと別れを繰り返すこの人生の中で、きっと、大切な出逢いもあるだろう。成長させてくれた別れも、あっただろう。この日の出逢いの意味が分かるのは、もっと、ずっと後だとしても、彼女にとって、何かの糧になってくれたら嬉しい。
 
 静かな森の中、淡々と下る下山路…。それぞれは、それぞれの想いで、足を運び、思い出になってゆく今日を振り返る…。でも、きっと、心はひとつになっていたと、思ってもらいたい…。
 
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ん?…靴が…
 
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蝦夷瑠璃草(彼女の撮影)

 



Nikon Df
AI AF Zoom-Nikkor 24-85mm f/2.8-4D IF

by meo_7 | 2017-07-27 14:01 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(2)
Commented by yah-_-yah at 2017-07-27 14:50
三浦さん、こんにちは!

三浦さんの山行記はドラマがあって楽しいですね!
三浦さんの文才が光ってます!

エゾルリソウ、ニセカウに咲いているのですね!
この花は見た記憶がありません。

大槍にも登ったことないですが、こちらも楽しそうですね!
いつか登ってみたいです。
Commented by meo_7 at 2017-07-27 19:28
yahさん、こんにちは。
これは、山行記というより物語になっていますね。
お付き合いいただいて、ありがとうございます。
 
頂上から下山路とは違う踏み跡が2本あります。
1本は、おそらく、沢から上がってくるものと思われます。
1本は、下山路に入って直ぐに、左側に入る踏み跡があります。
それを辿ると、二手に分かれますが、左の踏み跡を辿ります。
その先に、ザレ場があります。
 
大槍は、高度感がありそうですね。
僕は、撮影専門でしたが…。
 
是非、ふたつとも、やっつけちゃって下さい。


時々、想うこと…


by MIURA@オイちゃん

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