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シレトコスミレ〜硫黄山

僕は、以前、尾瀬に住んだことがある。それは、仕事でだったけど。その所為で、尾瀬が好きになり、山歩きもするようになった。そんな縁で知り合った尾瀬好き仲間が、来道してきた。尾瀬好きとは、つまり、花好きでもある。彼らの目的は、最果てに咲く、シレトコスミレとのご対面だった…。
 
7月6日、女満別空港に降り立った4人。僕の車とレンタカー1台での移動だ。途中のウトロの道の駅で、早速、北海道の食三昧を楽しむ。僕にしてみれば、北海道の食は、料理とは呼べず、素材の質で勝負しているに過ぎないと思ったりしている。しかし、その素材が肝心なんだよ、と言いながら、美味しそうに食べてくれる道外の人を見ていると、何だか、嬉しくなったりするのも、本当だ。
 
予定では、知床峠の羅臼湖の散策だったが、展望も期待できないので、近場のオロンコ岩を散策し、知床五湖の展望台巡りなどして、ホテル地の涯まで送り届ける…。
 
明けて、7日、午前6時、ゲートを抜ける…、
 
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さて、メンバーは、てばまるさん、meaちゃん、kazuさん夫妻、ママと僕の6人の筈だった…。しかし、歩き始めると、先着していた3人が同行してくる。登山口では、「宜しくお願いします」と、言われた。濃いガスと、クマさんの恐怖で、行くかどうか躊躇していたところに、僕たちが来たらしい…。選りに選って、道外のグループと、僕とママのデコボココンビを選ぶなんて…。
 
成り行きとはいえ、パーティーはパーティーだ。ママに先導してもらい、僕はしんがりを務める。力量も分からないから、道すがら、対策を考えなければいけない。この時点で、僕自身は、一番体力のないものに付き合うと決めたので、最悪、登頂を諦めていた。
 
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登山道は、ジグの道から始まり、その後、緩斜面の樹林帯を歩く。相変わらず、ガスは濃く、不気味な様相の道は、知床ならではの趣もあるからだろう。9人の面々の存在感や、熊鈴のかしましさが、クマさんを遠ざけるのかどうかは分からないけど、恐怖心は、無かった…。
 
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ゆっくりとしたペースは、ママが作っている。何とか、全員を登頂させたいのだろう。間に7人を挟んで歩くのは、初めての経験だ。勿論、ママがある程度の責任を負ってトップを歩くのも、初めてだった。一度歩いたことがあると云っても、8月中旬に、縦走の下山に歩いただけのルートだから、様相は、まるで違う。
 
展望台に着いたが、やはり、展望は開けない。だからといって、ガッカリすることはなかったのは、第一の目的が、シレトコスミレとのご対面だったからだ。展望台から上は、木々も少なくなり、岩が露出し、淡々と登る単調さから解放される分、危険度も増してくる。慣れない人は、緊張で疲れてきたりする。徐々に遅れてくる人も出てくる。こんな場合、見知らぬ人も混じった急造のパーティーでは、無理をして頑張ったりする人がいたりするものだ。これを見逃してはいけないのだと、僕の経験が、語りかけてくる。
 
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這松帯に入る頃、僕は、パーティーをふたつに分けた。「頑張る隊」と「頑張らない隊」だ。この分け方は、便宜上のものなのだ。結局、どちらも頑張ることになるのだし…。先行メンバーは5人。後続メンバーは4人。僕とママは、行きがかり上、分かれた。「頑張らない隊」の先導は、一番自信がないと自己申告した人に任せる。不思議なもので、プレッシャーから解放された「頑張らない隊」は、結構、良いペースで歩き始めるのだった。
 
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這松帯は、延々と続く。日高のそれに比べると、一級国道かも知れないが、単調な道は、気が滅入るものだ。それが終わると、一旦、道は、沢筋に向かって下り始める。いよいよ、沢と出合うわけだ。この時季の沢は、雪渓が残り、それが崩壊する危険が伴う。ママたちは、出合で待っていた。後続の僕たちは休憩を長目に摂って、ママたちには先発してもらったが、ママが、程なく戻ってくる。後に聞いたが、沢の状況が良くないので、サポートが僕だけだと心配だからだったと、語った…。それは、正解だったかも知れない。ママも、成長した…。
 
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沢筋を埋める雪渓は、所々、不気味な穴を開け、険悪な岩と激しい水流を覗かせている。気温が上がらず、雪渓の雪は固くはないが、キックステップが容易な柔らかさでもない。僕以外は、軽登山靴なので、用意してきたアイゼンを装着してもらう。同行したメンバーの内、二人は用意していなかったので、急斜面では、僕が、キックステップを切って、ルートを作ったりしたが、若い二人は、身体能力も高いようで、安心して見ていられた。
 
雪渓登りでは、全員が揃った。互いに、安全を確認しながら登りたかったのだろう。9人は、ここで、一丸となったのだった。名前も知らない人たちが、「絆」を築き始めていたのを、それぞれは、まだ、意識していなかった…。
 
僕は、偵察も兼ねて、ひとり、雪渓を登る。危険な箇所を知らせながら、全員、無事に登り切ったとき、新たな試煉が待っている。大きく崩壊した雪の塊が砂を覆い、沢を埋め尽くしている。その状況が、いつものことなのか、滅多にないことなのか判断は出来ない。
 
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幾つかの崩壊地を登り、通常の沢筋の様子になった頃、斜度は緩み、いよいよ、標高1400m地点の稜線に近付く。その時、先導しているてばまるさんが、シレトコスミレの株を見付けた。しかし、それは、花が散る寸前の、残骸のようなものだった…。しかし、メアカンフスマ、メアカンキンバイなどは満開だった。でもねー、目的は、シレトコスミレなんだよね。
 
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ガスの中、稜線を視界に捉える頃、第一シレトコスミレを発見。残骸が点々と散らばる中、よくぞ、咲き残ってくれていた。そんな健気なシレトコスミレは、清楚で、美しい花弁を、折りからの霧を纏い、瑞々しく咲いていた…。苦闘の末、最果てを感じた荒々しい斜面に、孤高に咲くシレトコスミレは、「訪れて良かった」と言えるだけの姿だった。
 
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全員、稜線に到達する。ここから30分で硫黄山の頂上だ。ランチタイムを摂り、下山開始時間まで、それぞれの目的を果たす。登頂組と、シレトコスミレ探索組だ。探索組は登頂をパスして、縦走路を目指す。ザックはデポし、それぞれ、雨具と飲料水だけを持って行動することにする。デポ番は、僕が引き受け、近くを散策することにした。結局、登頂組は、女性4人だけとなり、ママがリーダーになった。ママは、以前、ガスの硫黄山に登り、下山時に迷子になった経験がある。僕は、ママにGPSを渡し、万が一の時はトラックを見ながら戻ることを伝える。ママは責任を感じたのか、非常用の食料や用具をザックに詰め、背負っていった。
 
それぞれが、霧の中に消え、そして再び現れるまで、シレトコスミレ探しだ…。こんなひとときが、楽しい…。
 
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下山開始の時刻を15分超過したのは、誰の所為でも無く、僕の判断だった。ママは心配したが、最後の1枚まで、心置きなくシャッターを切らせてあげたかった。
 
そして、怒濤の下山が始まる。
 
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気温が低かったお陰で、雪渓の融雪も進んでいなく、快適に下った。沢の増水も僅かで、心を過ぎっていた心配も、杞憂に終わった。みんなの足取りは、思いの外軽く、ペース配分が絶妙だったことを窺わせる。
 
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雪渓の下部に至り、沢を下る頃、青空が覗き、日射しを浴びる。這松帯を抜け出た頃、とうとう硫黄山の雄姿も、みんなを見送ってくれていた。誰からともなく、歓声が上がる。
 
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旅も、終わりに近付く。でも、名残惜しいと云うよりも、早く終わりたいという気持ちの方が強いのは、やはり、この旅が、意外にも過酷だったからかも知れない。
 
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ママの、幾つかの、小さなミスもあった。しかし、いずれも大事には至らず、微笑ましい風景の一部として、みんなの記憶に残り、想い出になってくれたら良いと思う。何故なら、今回のママは、とっても逞しい一面を見せてくれていた。思い掛けなく、勝手に重い責任も背負って、頑張ったのだった。
 
樹林帯に入り、最後のジグの道に入ると、木々の間から登山口の標識が見え隠れする…。誰もが待ち望んでいた瞬間が訪れる。誰彼ともなく、自然に、手に手を取って、互いの健闘を確かめている。9人全員のチームワークの結晶が、「絆」となって、実った瞬間でもあった。
 
 
そして、僕は、3人の名前を、まだ知らない…。
後に聞くところに依ると、単独の若い男性、二人の姉妹だったということだ。
そう、僕が見ていたのは、みんなの安全だけだったのだ…。
 
良い旅だった…。
 
 
by meo_7 | 2012-07-10 04:48 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(6)


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