道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_01124974.jpg
 
 道東は、札幌圏からは遠く、広い…。それだけに、ある種の覚悟を必要とし、なかなか訪れる機会も少なくなる…。しかし、僕の好きな山が多いことも確かだ。8月も下旬になった。北海道では、晩夏と呼ばれる季節になってしまった。僕のように、山に入る動機の一番が、花の撮影という人にとって、ちょっと寂しい気持ちになるのは否めない…。その点、今回の相棒は、花も大好き、写真も撮るが、生粋のピークハンターでもある。山に入る動機が幅広いということは、どんな季節も選ばない、という訳で、楽しみも倍増するんだろうね。そんな彼女の、山旅は、どうなるのでしょうか…。




 花の季節が終わったら、紅葉に彩られた山々の美しさ、というイベントもある。丁度今は、その端境期ということだろうか…。それだけに、今回の山旅は、シンプルにピークを目指そうという、暗黙の了解もあった…。
 
 道東を選んだわけは、天候の都合だった。当初の計画は、さっちゃんも含めて、3人でペテガリの計画だった。なんと、それが、林道の閉鎖というタイミングの悪さ。次の案は、新冠ルートの幌尻岳だったが、急遽、さっちゃんが参加出来なくなり、天候の予報も良くないという理由で、大雪山も考えたが、そこも雨マーク…。比較的、天候の安定しているのが、道東というわけだった。狙う山は、斜里岳…。僕は、2度目の挑戦になる。しかし、彼女は、移動日の初日、途中で何処か、登れるところはないかと検討したようだ。
 
「西別岳、行けないかしら?」
 
という連絡が入る。僕は、名前は聞いたことはあるが、詳しい場所も、登山に要する時間も知らなかった。そこで、早速、調べてみると、昼頃に登り始めて、3時間でピストンし、宿泊予定の清岳荘に間に合うことが分かった。彼女の山好きは、本物だ…。
 
 早朝、午前6時半、札幌を発つ。高速を走り、道東の道に入る…。札幌圏に住む僕は、道東の過疎化を知らない。コンビニの一軒もない道を、車は、ひた走る。車のナビは、目的地を特定出来ず、道を見つけられないでいる…。そんな時、彼女の思わぬ才能が、助け船になる。スマホの地図を見ながら、彼女のナビゲートが始まる。そして、とうとう、西別小屋まで導いたのだった。
  
 午後12時半頃、彼女は、ひとりで、西別岳登山口を出発する。長距離を運転する僕は、当初は登らないという予定だった。でも、それほど疲れも感じなかったことと、明日の斜里岳に備えて、少しだけ歩いてみる気になった。でも、一緒に行動するには自信が無かったし、僕に合わせて、せっかくの登頂が叶わなかったら大変だ。そう伝えて、ふたりは、単独行となった…。
 
 単独行って、言葉の響きに憧れて、僕は、随分と、山をひとりで歩いた。苦しい道のりの中で、会話するのは、自分の心の中にしか住まない、もうひとりの自分自身だけだ。そんな時間が好きで、僕は、単独行を繰り返していた時代があった。総ての出来事を、自分ひとりで解決し、完結しなければならない。そうした経験が、僕を育ててくれた気がする。大自然と向き合うことは、闘いではなく、委ねることだと分かった。自然と一体になれたとき、大自然の一員として迎えてくれる…。そんな気がした…。抗わない、受け容れる…、そんな生き方を教えてくれた単独行…。彼女にも、経験して欲しいと、僕は、ひとりで出発する彼女を、見送った…。
 
 

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_08234704.jpg
笑顔で出発
 
 
 彼女の姿が見えなくなった頃、僕も、ゆっくりと歩き出した。真昼の日射しは強く、地面から照り返す熱も加えて、身体中が熱気に包まれるかのようだ。今まで、訪れる予定もなかった山なので、知識はないに等しい…。彼女も、この山を選んだのも、斜里岳への通り道に近く、登山時間も比較的短いから、という理由らしい。標高は1000メートルにも満たなく、僕は、たいした期待も持たず、よく調べることもなかった。
 
 登山道は、綺麗に整備されていて、刈り分けも、こんなに広くなくてもいいのに、と思えるほどだった。山容は穏やかで、どこか、のどかな雰囲気が、僕の全身を包む…。時季的に、花数は少なく、僕も、期待はしていない。僕としては、明日の予行練習のつもりの登山だったが、晩夏の花もチラホラと咲いている…。
 
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_09372901.jpg
  
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_09383746.jpg
モイワシャジン
 
 
 やがて、道は、笹原の真っ只中へと導かれる。登山口の案内板に、「がまん坂」と名付けられた場所が近付いてくる。そこは、笹原の斜面に、幅広の登山道が続いている。遠くに、彼女の姿が見える。今、将に、がまんを続けて、頑張っているのだろう…。
 
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_11133993.jpg
  
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_11144574.jpg
がまん坂
 
 
 僕が、がまん坂に辿り着く頃、彼女は、遠く山稜のスカイラインの奥に消えていった。がまん坂は、急登といわれるほどの斜度はないが、脚にジワジワと効いてくる。しかも、炎天下の笹原の真っ只中で、木陰すらない…。逃げ場所も失い、追い詰められた逃亡者のような心境だ。まあ、逃亡者になったことなどない品行方正な僕だから、この例えは適当ではないね…。とにかく、「がまん」の意味の中には、こうしたことも含まれているのだろう。
 
 一気に登り終えた彼女を見届けた僕は、もう、あんなパワーのないことを思い知り、中間地点で、とうとう、腰を下ろした。飲料水をガブ飲みし、一息ついた。こんな事で、明日の斜里岳は大丈夫なんだろうか…。すっかりと衰えた脚をさすりながら、僕は、天を仰いだ…。
 
 僕も、がまん坂を登り切った。登り切っても尚、笹原のど真ん中だ。木陰は、もう少し進んだところに見えるが、僕の脚は悲鳴を上げている。再び、腰を下ろし、行動食を補給する。行動してないのに…ね。誰も見ていないから、いいや…。
 
 彼女は、どの辺りを歩いているかなと思った頃、メッセージが入った。一緒に山に入っても、別々の行動することが多いから、ふたりの山行は、こうしたスタイルになっている。姿が見えなくなっても、互いの動向が分かると、安心できるね。僕の時代の「糸電話」じゃ、真似の出来ない芸当だ。便利な世の中は、山登りのスタイルも変えているのだね。しかし、通信は便利になっても、歩き続けることが基本の、山登り本来のスタイルは、変わらない。というわけで、重い腰を上げる僕だった。
 
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_12103431.jpg
 
 さすがに、彼女も暑さで参っているのか? いや、ただ、おなかが空いただけだろう。写真の主人公は、おにぎりだし…。内緒だけど、華奢な身体なのに、結構な大食らいなのを知っている…。こんな事ブログに書いていいのかどうか分からないけど、書いてしまった…。でも、本当は、合わない方の靴を選んで、試し履きをして、靴擦れの痛みに耐えて、頑張っているのだ。
 
 さて、リスケ山まで行くと返事をしてしまった。歩き続けるしかない。でも、今日、歩いて良かったと思っている。足慣らしになるし、明日の斜里岳は、今日の比ではない。登りの沢ルートは、繰り返される渡渉と、滝やザレ場の急登も待ち構えている。帰りの尾根コースも、アップダウンの繰り返す峠越えの道、そして、転げ落ちそうな急な下り坂が記憶に残っている…。果たして、彼女の足を引っ張ることにならないか、という思いが消えることはなかった…。
 
 晩夏を迎えた西別岳の登山道に、薄紫色の花が咲き誇る…。モイワシャジンだけと思っていたら、花が輪生しているものも咲いている。ツリガネニンジンだった。トウゲブキは、その存在を誇り、大空に向かって咲いている。シロバナノワレモコウが、そよ風に揺れている…。意外や意外…、西別岳は、花の山だった。エゾリンドウも咲き始め、花の季節の終わりを告げているようだ…。
 
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_14232813.jpg
ツリガネニンジン

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_14244089.jpg
エゾリンドウ
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_14261539.jpg
ヤマハギ
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_14275979.jpg
トウゲブキ
 
 
 どうやら、この辺りが、第一花畑と呼ばれる場所のようだ。事前に調べてきていないので、確かではない。6月頃から咲き始め、一面に、様々な花々に出逢えるだろう…。僕は、きっと、また訪れることになるだろうと、思っていた…。
 
 道は、やっと、日射しを遮ってくれるダケカンバの疎林帯に入った。なかなか、風情のある道だった。
 

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_14333417.jpg
ちょっとだけ涼しい小道…
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_14340503.jpg
いいですね〜
 
 
 緩やかに続く、気持ちの良い道は、まさしく散歩道のようだ。木立を縫う道に、お花畑が点在する。そこに、小さな紫色の花を見つけた…。なんと、チシマセンブリの花だった。見過ごしてしまいそうな小さな花を偶然見つけるというのは、とても、嬉しいことだった。マクロレンズを車の中に置いてきてしまったことが、悔やまれた…。
 

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_16143606.jpg
  
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_16144200.jpg
チシマセンブリ

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_16145087.jpg
チシマフウロ
 
 
 もう直ぐリスケ山かと思う頃、彼女から、西別岳山頂到達のメッセージが、写真と共に届いた。「着いたよ」「サイコー」という言葉が添えられていた…。ピークハンターの面目躍如というべきか…。天真爛漫なのだ。僕も、直ぐに、リスケ山に着く。遠く、西別岳の山頂には、標識と共に、小さな人影も確認できた。ひとり、山頂を独占している…。
 
 彼女が、思わず選んだ山だったけど、素晴らしい展望が待っていた。彼女曰く、猛々しい摩周岳の異様な姿は、気高く美しくもある…。摩周湖は、静かに水を湛え、神秘的な光を放っている…。もしも、時間があったなら、彼女はきっと、稜線に津空く道を辿り、摩周岳まで足を運んだだろう…。それほどに、魅力的な山容だった…。
   
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_16451784.jpg
西別岳山頂(彼女の撮影)
 

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_16480947.jpg
リスケ山より西別岳
   
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_16482535.jpg
摩周岳と摩周湖
    
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_16484920.jpg
斜里岳は、雲の中…
 
 
 およそ、15分の滞在で、彼女は、西別岳山頂を後にして、下山を開始した。彼女の大好きだという稜線は、長く続き、低山でありながらも、周囲の雄大な風景は、それを忘れさせるほどだ。良く見ると、彼女は、小走りで下っている…。まだまだ、体力に余裕があるということか…。
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_19595691.jpg
摩周岳(カムイヌプリ)

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_20000403.jpg
摩周湖
  
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_20145108.jpg
稜線を歩く…
   

 稜線歩きが大好きだという彼女は、山の本来の雄大さに惹かれているのかも知れない。何処かに続く道だから、その何処かに、思いを馳せる…。日高全山縦走など成し遂げる人は、結局、思いを馳せる…、という動機から始まったのかも知れない。その姿が近付き、リスケ山頂の山陰に入り、一旦、僕の視界から消える。その最後の登りで、再び、姿を現す。顔は上気して、頬を紅く染め、必死で登ってきた。ふたつめの山頂を踏んだわけだ。
 
 両方の山頂を踏んだ彼女は、このリスケ山からの展望も素晴らしいことを、教えてくれた。確かに、僕も、しばらく佇んでいたけれど、一向に飽きなかった。何時間でも座って、見続けることが出来そうなくらいに…。
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_21095262.jpg
リスケ山山頂は、細い稜線上にある…
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_21102257.jpg
雄大な風景の中で…

道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_21104591.jpg
次は、あの山…
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_21141078.jpg
サービスショット
 
 
 リスケ山の名前の由来は、人の名前だそうだ。この山域の登山道の整備もしてくれているという。ここは、長い稜線の中の小さなピークに過ぎないが、展望は圧巻だ。それ故に、リスケさんは、ここを訪れるみんなに、是非とも、立ち寄ってもらいたかったのだろうか…。

 充分に展望を楽しみ、眼前に拡がる摩周岳と神秘の湖に思いを馳せ、きっと、再訪するだろう想いを、僕たちは、言葉にしなくても、感じていた…。
 
 明日は、いよいよ、この山旅のメインである斜里岳だ。今日は、その姿は、生憎と雲の中に消え入っていた。ゆっくりと下りて、明日を夢見る者と、明日を案じる者とのふたり…、それぞれの想いも受け止めて、この雄大な風景の一部になれただろうか…。
 
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_21251506.jpg
   
道東弾丸ツアー 西別岳・リスケ山 2017/08/23_f0109977_21254840.jpg
 
(完)

by meo_7 | 2017-09-12 21:29 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(0)


時々、想うこと…


by MIURA@オイちゃん

カテゴリ

全体
登山(山岳徘徊倶楽部)
僕と音楽
徒然に…
ちょっとした旅
カメラ
山の道具あれこれ

最新の記事

あけましておめでとうございます。
at 2022-01-01 01:10
蝦夷延胡索(エゾエンゴサク)
at 2018-04-20 21:16
あけましておめでとうございます。
at 2017-12-31 23:05
昆布岳 落ち葉の登山路 20..
at 2017-10-21 17:47
白雲山・天望山(後編)アルペ..
at 2017-10-02 01:59
白雲山・天望山(前編)アルペ..
at 2017-10-01 00:32
大雪山紅葉の旅 プチ縦走(後..
at 2017-09-20 13:46
大雪山紅葉の旅 プチ縦走(前..
at 2017-09-19 05:24
道東弾丸ツアー 斜里岳(後編..
at 2017-09-13 20:47
道東弾丸ツアー 斜里岳(前編..
at 2017-09-13 11:23

以前の記事

2022年 01月
2018年 04月
2017年 12月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 02月
2016年 12月
2016年 10月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 01月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 01月
2013年 11月
2012年 07月
2010年 01月
2006年 12月
2006年 11月

お気に入りブログ

やぁやぁ。
風街角
pode ser um ...

外部リンク

お薦めのホームページ

最新のコメント

ニコン
by ニコン at 18:16
蛇口浩敬
by 今井慶松 at 18:16
はじめまして。福井市在住..
by 王島将春 at 21:06
翼さん、こんにちは。 ..
by meo_7 at 16:33
トップの写真、演出かもし..
by windy1957 at 10:33
てばまるさん、こんにちは..
by meo_7 at 22:16
いや~~~~~素晴らしい..
by てばまる at 15:15
yahさん、こんにちは。..
by meo_7 at 19:28
三浦さん、こんにちは! ..
by yah-_-yah at 14:50
翼さん、ありがとうござい..
by meo_7 at 11:39
いいね、やっぱり。 不..
by windy1957 at 10:23
てばまるさん、こんばんは..
by meo_7 at 23:14
クマガイソウというとなん..
by てばまる at 22:04
翼さん、まったくその通り..
by meo_7 at 20:30
辛い思いをしても逢えず仕..
by windy1957 at 17:33

検索

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

登山
カメラ

タグ

画像一覧

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31