道東弾丸ツアー 斜里岳(前編) 2017/08/24

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 コケモモの実も赤く熟す、道東の山は、晩夏の季節を迎え、秋の足音も聞こえてくるようだ。確かに、北海道の秋は、駆け足でやってくる。もの悲しい雰囲気と思われる季節だけれど、北海道の山の、秋彩に輝く風景を見ると、「燃える秋」という形容が相応しく思うことがある…。赤い実は、着々と、その準備をしている証なのだ。僕たちは、最後の夏を惜しむかのように、斜里岳の山頂を目指す。





 先ずは、この写真をご覧下さい。既に、ハイテンションです。彼女は、昨日、西別岳まで歩き、満足していた。今日の斜里岳も、初めて訪れるというワクワク感に包まれているのだろう。不安よりも期待の方が上回るという点で、僕とは違う。これは、見習いたいものだね。
 
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朝一でこのハイテンション
 
 
 天気は、高曇りで、時々、日が射す。予報は、そんなに悪くはない。実際、清岳荘から山頂も見える。彼女のハイテンションを見ながら、僕は、このまま天気が保ってくれたらいいな、と思っていた。
 
 実は、少し寝坊をしてしまった。清岳荘の横にある登山口を出発したのは、午前7時を回っていた。登山道は、樹林帯に入るが、直ぐに、林道跡に出る。曾て、その先に、旧清岳荘が在った。そこからが、本格的な登山道になる。
 
 清岳荘から辿る斜里岳へのルートは2本ある。通称、沢ルートと尾根ルートと呼ばれる。推奨されるのは、登りで沢ルート、下りは尾根ルートを辿るが良いとされる。確かに、沢ルートは、下りには、危険を伴う箇所がある。当然、僕たちも、下りは尾根ルートを辿る予定だ。
 
 午前7時15分、いよいよ、林道から離れ、入山する。彼女の、斜里岳に向かうモチベーションは高いが、渡渉の続く遡行に、多少の不安を隠しきれないでいる。僕は、それを察してはいたけれど、心配はしていなかった。渡渉という経験が少ないだけの話で、誰もが、登山の経験の中で通る道だ。彼女のバランスの良さは知っているし、ポテンシャルの高さも知っている。必ず、今日の山行で、この経験を、自分のものにするだろう…。
 
 登山道に入り、直ぐに、渡渉は始まる。水量は多くないのを確認し、僕は、少し安堵する。それは、彼女の靴が、水漏れするからだ。彼女は、靴をふたつ用意したが、防水が効いている方の靴は、昨日の西別岳でも靴擦れをしてしまった。日帰りなので、靴擦れで苦しむより、多少の濡れを我慢する方が良いという判断だった。
 

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最初の渡渉地点に着く…
   
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おっかなびっくり…
 
 
 渡渉は、流れの中にある石を跳び伝って渡る。歩幅には個人差があるので、誰もが同じ石を使えるわけではない。当然、彼女は、僕より歩幅が小さいはずなので、僕も、それを意識して渡ることにする。彼女が躊躇しているときは、先ず、僕が渡ってみせる。しかし、それも、最初のうちだけで、彼女は、その要領を、直ぐに自分のものにした。
 
 沢の遡行で難しいというか、楽しいというか、受け止め方は人それぞれだけど、ルートファインディングがある。右岸左岸、どちらかの河原を歩いているとき、通れなくなったり、危険な箇所に出遭う場合がある。そんな時、対岸に渡るか、高巻きをするか、そのどちらも無理な場合、へつるか、水の中に入るか…、色々な選択がある。それが、沢登りの難しさでもあり、好きな者にとっては、醍醐味でもある。しかし、斜里岳は、百名山でもあり、多くの人が訪れるということもあって、案内は親切だった。ピンクテープ、赤いペンキの矢印などで、その箇所を示している。僕は、敢えて、そんなルート取りの役割を、彼女に担ってもらった。いつか、日高の沢を辿って、奥深い山を目差す時、きっと役に立つだろう…。
 
 彼女は、戸惑うことなく、的確に、ルートを選別している。渡渉箇所も、自分の実力に応じた箇所を選ぶ。へつりも怖がらない。見た目は、所謂、山女には見えないけれど、そのポテンシャルは高く、静かな闘志さえ感じる…。
 
  
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ミヤマダイモンジソウ
 
 
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撮影中
 
 
 この時季の沢沿いの岩壁では、ミヤマダイモンジソウに出逢える。将に、旬の季節を迎え、岩壁にへばり付くように、無数に咲き誇っていた。写真を撮るが、今日のメインは花ではなく、目の前に展開する難路の攻略だ。それなのに、彼女の、この余裕には驚く…。本当に、山の総てを楽しんでいる…。
 
  
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軽快な歩み…
 
 
 幾つもの渡渉を繰り返すが、高度は、なかなか稼がない。しかし、滝が現れ始めると、せり上がるような斜度になり、沢の様相も一変する。この変化もまた、斜里岳の魅力のひとつなのだ。でも、まだまだ、僕たちの旅は、始まったばかりに過ぎない…。
 
 
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ルートを確かめる
 
   
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軽快です…
 
 
 いつの間にか、彼女は、何の躊躇もなく飛び石を伝い、あっけなく渡ってしまうまでになっていた。ルートファインディングも楽しそうだった。鉄道員が指差し確認をするように、指を差し、声に出して、ルートを確認する。一歩を踏み出す前に、もう一度、辺りを見回し、見落としがないかを確認したりする…。やはり、単独行の経験があるからだろう。安全への注意を怠らない。自分の事を憶病だから、と言うことがあるが、それは正しいことだ。憶病こそが、実は、安全を保証する要素の、重要な事柄のひとつだ。
 
 彼女は、時折、「あーっ、あー!」と、独特の叫び声を上げる。自分の存在を、森の住人、ヒグマに知らせているのだ。もう、一端の沢屋さんのようでもある。よく観察していると、見通しの悪いところ、曲がり角に近付いたときなど、なかなか的確な判断なのだから、ちょっと、驚く…。もう、僕には、何の役割もなくなってしまった…。
 
 
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へつり
 
 
 水量が少ないので、へつりで緊張をする場面は、そう多くはない。それでも、失敗したら確実に濡れてしまうから、慎重になる。浅いからといって、安心は出来ない。水の中で足を滑らせ、転倒したり、骨折、捻挫してしまったりと、へつりの失敗は、大きなリスクを伴う。彼女が、今日の経験で、何かを得てくれたらいいと思いながら、遡行は、より困難なところへと導かれる…。
 

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時折、空が開ける…
    
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オオバタケシマラン(実)
 
 
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(彼女の撮影)
  
  
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山頂は、まだ遠い…
 
 
 午前8時を過ぎた頃、下二股の分岐に着く。尾根ルートの新道との分岐だ。ここからは、滝が連続し、斜度も増してくる。緊張の度合いも比例するから、疲れも忘れるが、意外に消耗するはずだけど、単調な道とは違い、飽きることはない…。
 
 僕たちの会話は、殆どが注意の喚起や、ルートの確認などの言葉や合図だけになる。やはり、のんびりとした雰囲気にはならない道が続く。先を行く彼女は、危険な箇所では、僕に注意を促したり、通過を確認してくれたりしている。数ヶ月前を思うと、既に、立場が逆転している。もう、立派なリーダーだ。こうして、彼女は、知らず知らずして、経験を重ね、山を知っていくだろう…。経験を積みたいと理由で、僕やさっちゃんと歩くようになった訳だけど、それだけに、僕の役割は、彼女を成長させることだと思っている。だから、僕と歩く限り、彼女の山は、決して、「連れていってもらう登山」ではない。だから、自ずから彼女の判断は、同行者への気遣いも含まれてくる。彼女の成長を見守る僕は、徐々に逞しくなる姿を見て、「役に立てたのかな〜」と、思ったりする…。
 
 最初の滝が、現れる…。しかし、総ての滝を登るわけではなく、高巻いたり、縁を歩いて通過する。地形は、より複雑になり、谷も深くなる。彼女に疲れは感じられない。ただ、いつになく、表情は真剣だった。気を緩められないことを知っているからだ。
 
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水蓮の滝
 
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羽衣の滝
 
 
いよいよ、滝の遡行が始まる…。斜里岳の核心部に入るわけだ。怒濤の後編に続きます…
  


by meo_7 | 2017-09-13 11:23 | 登山(山岳徘徊倶楽部) | Comments(0)


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