蝦夷延胡索(エゾエンゴサク)
北海道では、普通に見られる花だということも知らない頃、40年前の5月上旬、僕は、まだ雪深い尾瀬にいた。
雪の三平峠を長靴で、汗だくになって登りながら、
「どうしてこんな所で働く気になったんだろう?」
と、後悔しながら眼にしたものは、絵はがきや写真で見た、蒼い水を湛える尾瀬沼ではなかった。そこは、まだ、「白い尾瀬」だった。
「こんなところに、半年もいられるのか?」
毎日、思うことの一番多い自問自答だった。
どうしたのだろう? 僕は、その花の名前を、訊ねに、山荘まで走った。後に、「花の先生」と、僕に呼ばれることになった青年は、
「エゾエンゴサク、という花だよ…」
と、ボソッと答えた。
この日、この瞬間が、今の僕を形成させたのだと思えるのだ。当時の友は、道端にしゃがみ込み、花を見つめる僕の姿を見て、何を思うかを想像するだけでも滑稽だ。初めて、今までにはない、「自分」を見つけた。総て、エゾエンゴサクが、始まりだ…。
by meo_7
| 2018-04-20 21:16
| 登山(山岳徘徊倶楽部)
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